ユースケ

ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド ゾンビの誕生のユースケのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

①生者を襲って人肉を喰らう②噛まれると感染する③頭部(脳)を破壊しない限り活動し続けるというゾンビ三原則と外部からの情報が遮断された閉鎖空間で恐怖によって次第に崩れてゆく人間関係というゾンビ映画の基本シチュエーションを作り出し、モダンゾンビを誕生させたジョージ・A・ロメロ監督による元祖ゾンビ映画である本作は、多数派と少数派が逆転する恐怖を描いたリチャード・マシスンの【地球最後の男】をベースに、黒人公民権運動やベトナム反戦運動の影響で内戦状態にあった当時のアメリカをゾンビと人間の内戦に置き換えて描いた政治的な一本。
動きが鈍く、ひとりひとりは弱いのに群れると強くなるゾンビは、カウンターカルチャーによるアメリカの変革に乗り遅れ、リチャード・ニクソンをアメリカ合衆国大統領へと導いたサイレント・マジョリティ(声なき大衆)を表しているのです。だからゾンビは白人のブルーカラー(肉体労働者)ばかりなのです。

みどころは、大声で騒ぐ役立たずな発狂娘のバーバラと地下室にこだわる自己中でヘタレなハゲ親父のハリーに鉄拳制裁を食らわる主人公のベンがゾンビ問題に真面目に取り組めば取り組むほど状況を悪化させる展開。
特に、たったひとり生き残ったベンがゾンビと間違えられて射殺されるラストシーンからミートフックで引きずられてゾンビと一緒に焼却されるエンドクレジットへの流れは胸糞MAX。ベンにヘッドショットをキメた保安官の「グッド・ショット」のセリフもたまりません。
ゾンビも黒人も同じ扱いなんて風刺が効き過ぎだし、地下室に居れば助かったなんて皮肉が効き過ぎで何とも言えない気分にさせられます。

ちなみに、原作者のジョン・A・ルッソが新たに15分の追加撮影分を加えて再編集した【30周年記念の最終版】は宗教万歳なクソバージョン。監督のジョージ・A・ロメロは関わっていないので、ビル・ハインツマンが演じたアグレッシブなファーストゾンビの素性がどうしても知りたい方だけ鑑賞して下さい。それにしても、神父のヒゲがムカつく。

映画評論家町山智浩先生の解説によれば、ゾンビの弱点が頭部(脳)なのは、ケネディ大統領暗殺事件やテト攻勢の時にエディ・アダムズによって撮影されたサイゴンでの処刑のヘッドショットを表し、ベンが建物を補強したり、ハリーが地下室にこだわったり、ゾンビの発生原因が放射能なのは、冷戦による核戦争への恐怖を表し、黒人のベンと若者のトム&ジュディが協力して車にガソリンを入れようとして失敗するのは、カウンターカルチャーによるアメリカの変革の失敗を表しているそうです。本当に公開当時のアメリカの映し鏡のような映画なんですね。