緋里阿純

ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド ゾンビの誕生の緋里阿純のレビュー・感想・評価

3.4
ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロ監督の原点にして金字塔。モノクロのタッチで描かれる惨劇の一夜。

父の墓参りにやって来たジョニーとバーバラの兄妹は、突如墓でゾンビに襲われる。ジョニーが犠牲となり、何とか一軒家に逃げ込んだバーバラは、同じく逃げ込んで来たベン、隠れていたハリー一家やトムとジュディのカップルらと共に、襲い来るゾンビ達との恐怖の籠城戦を強いられる事になる。

ブードゥー教に伝わる「死者を蘇らせて奴隷にする」という、それまでの“ゾンビ”という存在に革新的なアプローチを加え、ゾンビ映画の原点としたロメロ監督の手腕は素晴らしい。
ゾンビ化する原因を、地球への帰還前に爆破した金星の探査衛星からの放射線という科学的な分野に定めている点も見逃せない。
ゾンビ映画において、ゾンビ化する原因は様々であるし、「分からないからこそ怖い」というアプローチもしばしば取られる事があるが、原点がこんなにも革新的で鮮明なアプローチを見せていたとは驚いた。

また、動きこそ鈍重ながらレンガを持って窓ガラスを割ったり、武器を取って襲って来たりと、知性を感じさせる行動も恐怖を加速させる。火を怖がるという性質も面白く、それを利用した脱出作戦もハラハラさせられる。

しかし、どうしようもないくらいに登場人物達それぞれが無能で、互いに足を引っ張り合ったり、勝手な行動が事態を悪化させたりと、鑑賞中度々ストレスが溜まっていくのは頂けない。ゾンビより人間の方が遥かに性質が悪いというのは何とも皮肉。

ジョニーを見捨てた事に取り乱し、冷静さを失い発狂、やがて茫然自失となるバーバラ。
ベンとハリーの言い争いは、その前に先ず地下室の状況を確認しに行けば良いだろうにと思わずにはいられなかった。
ハリー妻のヘレンからも身勝手だと言われ、臆病風に吹かれベンを見捨てて地下室に立て籠もろうとしたり、猟銃を奪おうとする。
数少ない冷静な思考回路のトムはまだしも、恋人のジュディは決死の脱出作戦に突発参加し、結果的に2人ともトラック爆発に巻き込まれてしまう。
ベンは、せっかく惨劇の一夜を乗り切るも、救援隊に声を出して自身の無事をアピールしたりもせずに呆気なく撃たれて命を落とす。怒りによってハリーを射殺してしまった罪はあるが、あまりにも間抜けな最期である。

ヘレンの「結婚生活の問題は、一緒に死んでも解決しない」という台詞は良かった。
また、トム達の焼けたトラックから死体を引っ張り出して貪り食う描写は力が入っていた。

原点として様々なゾンビ映画の基本型を確立しつつ、オリジナリティにも溢れた作品。登場人物達がもう少しマトモならばと思ってしまうが、それは1990年のトム・サヴィーニ監督、ロメロ脚本によるリメイク版で果たされている。
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