緋里阿純

キャビンの緋里阿純のレビュー・感想・評価

キャビン(2011年製作の映画)
4.3
いとこの別荘だという古い山小屋にやって来た大学生の5人の男女。そこの地下室に眠っていた古い品々の中から、とある日記に書かれた呪文を唱えた事で、その地に眠る邪悪なゾンビ一家が目覚め、惨劇の一夜が始まる。

監督・脚本は、『クローバーフィールド/HAKAISHA』『ワールド・ウォーZ』『オデッセイ』の脚本も手掛けたドリュー・ゴダード。また、『アベンジャーズ』のジョス・ウェドン監督も脚本に参加している。
出演者に『マイティ・ソー』シリーズのクリス・ヘムズワースも参加している。

本作を一言で表すなら、【ホラー映画ファンへ向けた最高のボーナス作品】と表現すべきか。ゾンビ以外にも、幽霊、狼男、半魚人等々、長い歴史を持つこのジャンルに登場してきた様々なモンスターが登場する。そういった意味では、夢のオールスター作品とも言えるかもしれない。

惨劇に巻き込まれる大学生5人は、ホラー映画のステレオタイプで構成されている。ヒロインのデイナは穢れなき処女、カートは勇敢なプレイボーイ、カートの恋人ジュールズはセックスシーンによる観客へのサービス要員、ヤク中のマーティンはお調子者のトリックスター、ホールデンは冷静な善き人(だからこそ犠牲者になりやすい)と、正に教科書的な面々だ。そして、それこそが本作において重要なのである。

何故なら、本作はメタ視点が非常に大きな意味を持っているからだ。個人的には、メタ視点の作品はあまり好みではないのだが、本作のようなアプローチでなら話は別だ。ホラーファンを楽しませると同時に、痛烈な皮肉も込められており、それが本作を単なるホラー映画の一作品に留めない非凡さを放っている。

冒頭から登場する謎の実験施設。職員らの会話から、既に大きな意思の下で本作の惨劇が始まる事を予感させる。次第に施設の全容が明らかになり、この実験施設では若い男女らを惨劇の舞台に招き入れ、求められたシナリオに沿って惨殺されるよう手引きしている事が判明する。その目的は、“古き邪悪な神々に生贄を捧げる事で、人類の生活を守る”というものだ。しかも、施設は世界中に存在し、モニター越しに惨劇に巻き込まれる人々を監視し続け、様々な手段を用いて彼らを死に誘う。どの小道具に対応したモンスターを呼び出すのか班ごとに賭け、セックスを覗き見るという悪趣味さ。

しかし、このシステムそのものこそが、我々観客がホラー映画を鑑賞する行為に他ならないのだ。我々は登場人物達が悲惨な目に遭う事を期待し、彼らの最期に狂喜乱舞する。時には登場人物を、時にはモンスターを応援するという、その時々に応じて応援すべき対象を決めるという身勝手さまで描き出している。

そうした我々のホラー映画への鑑賞姿勢を皮肉りつつ、同時にクライマックスでは様々なモンスターを総出演させ大虐殺を繰り広げるという大サービス。それらを95分という正にホラー映画に相応しいコンパクトな尺で描き切っているのが素晴らしい。世界のシステムの説明役が、SFホラーの金字塔『エイリアン』のシガニー・ウィーバーという徹底ぶりも嬉しい。
緋里阿純

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