緋里阿純

Mr.ノーバディの緋里阿純のレビュー・感想・評価

Mr.ノーバディ(2021年製作の映画)
3.9
冴えないオヤジの溜め込んだフラストレーションが爆発した時、ロシアンマフィアとの過激なドンパチが始まる。
『イコライザー(2014)』『ジョン・ウィック(2015)』に代表される、“ナメてたオヤジが実は最強の殺人マシーンでした”物アクション。脚本が『ジョン・ウィック』シリーズのデレック・コルスタッドだと知って納得。

月曜のジョギング、火曜のゴミ出し(失敗)、水曜の…と、毎日毎日、毎週毎週変わり映えのしない冴えない日々を送っているハッチ・マンセル。息子からは尊敬されず、妻との夫婦関係も冷めきっておりベッドはクッションが立てられ区切られている始末。しかし、彼の正体はかつて政府機関で“会計士”として殺しを専門に行っていた「NOBODY(存在しない者)」だった。

冒頭でテンポ良くハッチの淡々と過ぎて行く冴えない日常を見せ、家に侵入してきた強盗すら撃退出来ない一見無様な様子を見せる。しかし、侵入してきた強盗が手にしていた銃のシリンダーに弾が入っていない事を瞬時に判別して手を出さなかった事が判明すると、それまでの彼への印象がガラリと変わり只者ではない事が分かる。このキャラクターの印象が切り替わる瞬間が上手い。

また、殺人マシーンとはいえ決して最強というわけではなく、路線バスで酔っ払ったチンピラ達と殴り合いを繰り広げる際には、年齢による体力の減少を感じさせたり、攻撃を受けて負傷もする。この辺りのバランスが、『ジョン・ウィック』のような「何があろうと絶対に殺しに行く」という感覚とは違い、「次にどうなるか分からない」という適度なハラハラ感を演出している。

ハッチの父親であるデイビッドのキャラクターも強烈だった。一見すると、老人ホームで息子のように変わり映えしない生活を送っている老人だが、その正体は元FBI捜査官。息子に負けず劣らずの銃の腕前で、「忌々しい事にこの生活が忘れられない」と、若かりし頃の刺激を求めてクライマックスの銃撃戦に参加する。

異母兄弟のハリーは、そんな2人の振り回され役。ハッチとの無線機でのやり取りでは、「助けないぞ」と口にしつつも、クライマックスではしっかり助けに来るのはお約束。

シンプル且つコンパクトな尺でテンポ良く物語が展開される為、気軽に観られるアクション映画として優秀。
続編の制作も決定しており、更に脚本家だけでなく制作陣にも共通する人物が存在する事から、『ジョン・ウィック』とのクロスオーバーの可能性すらあるという。今後の展開が楽しみだ。
緋里阿純

緋里阿純