Antaress

旅情のAntaressのレビュー・感想・評価

旅情(1955年製作の映画)
5.0


以下、自分の別ブログからの転載
       ↓↓↓

自分はヘップバーンと言えばオードリーよりキャサリン派。
別にオードリーが好きじゃないワケではなくて単に好みの問題。

日本だとオードリーは未だ大人気ですが欧米ではキャサリンの方が人気があるとか。

日本人は可愛いものが大好き。それがオードリーの妖精っぽい容姿やファッションを含め日本での人気に繋がったんでしょう。

でもやっぱり私はキャサリン派(しつこい)

凛としてカッコ良くて何処か庶民的な彼女が大好き。

《旅情》では38歳のハイミス(この言葉もアレだけど昔はオールドミスなんて更に酷い言葉もあったな。今ならセクハラで訴えられるわ)を演じたキャサリン。

デジタルリマスター版を映画館のスクリーンで観るとシワもシミもはっきりくっきり見えちゃう。
1955年の日本公開当時ならお肌のアラもここまで見えなかったんだろうけど。デジタルリマスター版は女優さんにとっては残酷。

けどきっとキャサリンはそんなことなど気にしていないと思う。

役者魂のかたまりみないな彼女のこと
「38歳の女性のリアリティでしょ、シワもシミも!」
と言ってそう。

この映画は大人の女性が恋をするお話。

シワもシミもあるアメリカ人のキャリアウーマンがベニスで思いがけず恋に落ちる。

これが若くて可愛い女の子がヒロインだったら面白くも何ともないベタベタ甘い綿菓子みたいな三文映画になっていたかも。

主演のジェーンをもうそんなに若くないキャサリン・ヘップバーンが演じたからこそ素敵なの。

ベニスの街に少女の様に胸をときめかせるジェーン。

けれどそんなにロマンティックな街なのに一人ぼっちの自分に哀しくなり…

そこに現れたプレイボーイのオッサンのナンパにワクワクしたり怒ったり笑ったり涙したり。
様々に変わるジェーンの表情が本当に可愛らしくて愛おしい。

またこのプレイボーイのレナートが狡いんだわ。

自分の息子を甥っ子と偽っていたし、それをさり気なくカムアウトする様にジェーンとの待ち合わせに遅れることを息子に知らせに行かせる。

お堅いジェーンが怒ると「始まる前に終わるのが怖くて言えなかった」
とチャラ男の常套句。

「こんなこといけないわ」
と拒否るジェーンに
「ここはアメリカじゃないんだよ」
うん、それもそうなんだけど。

レナートのゴリ押しとロマンティックな雰囲気に負けて結局は落ちるジェーン。

花火の打ち上がる夜空の下ベランダでキスを交わすふたり…
ジェーンの片手にはベニスで買った赤い靴。

その靴が彼女の手からぽろりと落ちて…

激しいラブシーンなんか無くてもふたりの情熱的な夜を十分に想像出来る演出が良い。

ベランダで裸足になっているジェーンは既にかなりレナートに心を許している。
空を彩る花火とキスが最後の心のタガを外したのね。
靴を落とすことで彼女のその心情を表しているのがお上品。

暫しの恋に身を委ねた彼女はアメリカへ帰るときっぱり決心する。

最後にベニスを目に焼き付けようと街を愛おしむ様に眺めるジェーンに泣ける。

「何故急に?帰らないで!」
「君を一生愛するよ!」
とチャラ男。

「今帰ったらね」
「いつもパーティから帰りそびれた。帰るタイミングがわかったの」
と大人なアメリカ女。

これが小娘なら
「わたしベニスに残るわ!あなたとずっと一緒に居る!」
って展開になる。

それで暫くは幸せでも結果は目に見えてるもん。
レナートのいい加減さに程なくイライラしはじめて喧嘩になる。アメリカでの仕事もダメになる。
「わたしの人生どうしてくれるのよ!」と。

チャラ男もそうなるのがわかっているので若い女の子には手を出さない。まー典型的なスケコマシてこと。

ベニスを発つ汽車に乗り込むジェーン。
レナートを探す彼女の前に現れたのは観光客相手に商売をする少年マウロ。ジェーンがベニスで一人ぼっちで淋しかった時に心の拠り所になった小さな男の子ね。

この少年が居なかったらビデオカメラも運河に沈んでいたし(笑)

彼女にペンを差し出すマウロ。
「要らないって言ったでしょ!」
「違うよ!上げるよ!」
「何故?」
「だってシニョリータが好きだから」
「まあ!ありがとう!」
「また来年来るよね?」
「ええ、来るわ!ありがとう!」

泣ける…

マウロとサヨナラして汽車が動きはじめるとやっと現れるチャラ男。←ここもズルいよな。
手には小さな箱。

ジェーンに手渡そうとするも追い付かず箱を開けて中から取り出して彼女に見せたのはクチナシの花。

デート中にレナートがジェーンにプレゼントした二人の思い出の花。そのクチナシの花は彼女が運河に落としてしまいレナートが拾おうとするも流れて行ってしまった。

駅でのお別れの時にもジェーンが手にすることがなかったクチナシ…叶わぬ恋の象徴なのか。

クチナシの花を見て「わかったわ!ありがとう!」とジェスチャーで応えるジェーン。

プラットホームにレナートを残し汽車はベニスの街を離れたのでした。

旅先でのアヴァンチュールは後腐れなく、てのがこの映画の教訓ね。

そして私はやはりオードリーよりキャサリン派です。
Antaress

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