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動くな、死ね、甦れ!のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

動くな、死ね、甦れ!(1989年製作の映画)
4.4
すごいものを体験した。混沌と混迷から爆発するエネルギーに圧倒された。カメラワークが体育会系。走る、走る、逃げる、逃げる。第二次大戦直後の、ロシアの極東ウラジオストク近く。日本人収容所もある炭鉱の村の、少年と少女の淡い恋物語。

戦争の狂気を引きずっていて、死が身近で、物資はなく、這い上がろうとする大人たちの泥まみれな欲望と狂気。未亡人となった母は恋に溺れ、息子に邪険に当たる。

強烈なタイトルは、痩せた土地に住むように決められ逃げ出せない上に、食糧の配給が乏しく、それでいて戦後の復興に励み働けとされた三重苦のこと。

監督の出身地が舞台で、少年は監督なんだろうか。記憶の中の死と狂気と愛への渇望を、冷静な少女の目線で捉えている。少女は少年にとって想像の中の友達だったように思える。

「大人は判かってくれない」へのオマージュとも言われているように、愛されたい少年の斬新な悪戯は少年を孤立させるだけで、少女以外は少年を見ようとしていなかった。

手持ちのカメラで動きがあり、カットが生き生きしている。その場のエネルギーが感じられた。ジャケットの画のように、一瞬の動きの中に美が宿る。混沌と狂気の中でも、そんな永遠に刻まれた美しい人生の一瞬に溢れていた。
少年が飛び乗った石炭貨車を少女が追いかけるシーンは泣きそうになった。

撮影中の監督の笑い声や監督の指示の声も入っていて、荒削りだがダイナミック。不思議な魅力に満ちていた。

ロシアの力強い原始のロックンロールだった。大声で話し怒鳴り、喧騒の中で大声で歌う人々はまるで吟遊詩人。誰かに聴いてもらいたい叫びだった。

日本の民謡(よさこい節等)が時折差し込まれ、こんなにロシアの泥炭の土地に似合うとは思ってもみなかった。

少年は混沌の中でたくさんのことを失った。人生の序章は痛くて悲しくて美しい。たとえ狂っていても。
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