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パフューム ある人殺しの物語のネのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

視覚と聴覚からの情報で嗅覚を刺激することは可能なのだと知った。
処女13人の体臭を調合した香水が、人々の心を狂わせるほどの極上の香りとなる。女として生きてきた身として、そうやって未成年の少女を純粋無垢の象徴として扱うのはいい加減やめてくれと思うのに、きっとむせかえるほど濃密で甘美な香りがするのだろうと期待している自分もいる。こういう映画を見るたび、自分の趣味嗜好と自分の置かれている生きづらさを生み出す原因とがぶつかり合う。どうしたらいいんだろうな。自分に都合がいい人間なので、趣味嗜好を優先して楽しく観てしまうのですが。

たった数滴の香水が、大衆に13(はじめの女をいれると14)人もの女を殺した罪を無罪だと言わしめる力を持つ。目に見えない香りというパワーが大衆を導くその様は、まさに宗教のようだった。
そしてこれだけ多くの人間を自分の元に跪かせる力を持っても、自分が追い求めた女は手に入らない。香りを表現することはできても、女自身からの愛を受けることはできない。跪いている人間は自分が調合した香りに対して屈しているのであり、自分自身が愛されて崇められているのではないと気付いてしまったときの空虚感がなんとも悲しかった。
こうなれば最後まで騙されまいと気を張っていたローラの父だけでも自分を許すまいと、罰してくれればよかったのに。ローラの父が剣を捨てたあの瞬間、自分はもう誰にも愛されも恨まれもしない、「無」であると、再び気づいてしまった。(1回目は自分に体臭がないことを知った時に気づいている)

グルヌイユは女たちを殺したかったわけではない。香りのエッセンスが欲しかっただけなのだ。物悲しい映画だった。そして、官能的な映画だった。
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