● お互いが邪魔をし合っている
歌によって語るのがミュージカルなら、映像によって語るのが映画。
本作はその贅沢すぎる映像が、歌を毀損している。
あるいは、長すぎる歌が、映像を毀損しているのである。
● 三分か、あるいは三秒か
極端にいうと、映画は一切の台詞無しに、三秒で観客に状況を伝える芸術である。
けれども本作は、その観客にも解ることを、延々と歌で三分間も語り続けてしまう。
例えば、マリウスが戦いに敗れ、一人生き残ってしまった事を苦悩する場面は、
映像演出では台詞無しに、時間にして「数十秒と、三カット」で演出できる。
① 一人孤独にたたずむ、マリウス
② 酒を飲む
③ 死んでいった仲間の写真か絵でも見て、泣き出す
(ほらね? 台詞もいらないし内容も伝わるでしょ?)
これを本作では、「三分以上もかけて、歌で説明してくる」のである。
このミスマッチ感は、歌か、あるいは映像のどちらかが過剰で、互いを毀損し合っている為に起っている。
大きな動きのない舞台の上で、
「登場人物が歌で語ることによって成立する芸術」がミュージカルなら、
大変残念な事に、
本作は「途方もない設計ミスの上に製作された」と言わざるを得ない。