ほわいと

サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへのほわいとのレビュー・感想・評価

4.9
映画のことがよく分かるのはもちろん、映像、カメラ、監督、演技、編集、デジタル技術、CG、カラー補正、プリントフィルム、劇場、3D、映画鑑賞のあり方…様々なことが分かる情報量がこれでもかと詰まったドキュメンタリー作品。今作は映画を見る上で最も"教本"と呼ぶべきものに近いと感じた。これを観ると、映画を観る上でさらに深く楽しめたり、考えたりすることが出来ると思う。本当に映画を観る人全てに観て欲しい!無料でDVDを配布していただきたい!(笑)

ここまで感銘を受けたのは自分が映画制作の裏側で起こっていたデジタル論争について全く把握していなかったことの裏返しで、2000年代におけるデジタル撮影の変遷がとても興味深かったし、あれほど試行錯誤が繰り返されていたのは知らなかった。
デジタル技術はフィルムでは出来ない様々なことを可能にし、有益なものをもたらした革新的技術。デジタルの方が撮影だけでなく、演技・コスト・編集など様々な点で利点があり、映画館で観る上でも違ってくる。
例えばフィルムだと撮影出来る限界は10分間が最大で撮りたくても撮れないし、一々休憩を入れるとなると俳優の演技のノリが悪くなる場合もある。また現像に一日を要するため、その場でチェック出来ず撮影時の細かい変更が不可能だったりする。

多くの監督が登場し、それぞれの考え方が分かるのがとても面白いし、改めて映画を作ることの苦労を知ることが出来た。多くがデジタル派、またはデジタルに抗えないとする立場。ノーランが唯一フィルム主義者といえる。欲を言えば、タランティーノも出演して欲しかった。
今までデジタル登場以前、フィルムで撮影されていた過去の作品は今よりもシビアな状況下で撮影され、演技が行われていたことをあまり考慮していなかったので劇中で例に出される過去の名作を凄く見返したくなってくる。

ジョージ・ルーカスは「スター・ウォーズ」によって映画界のデジタル技術の発展に多いに貢献した人物で、旧三部作でのデジタル編集についての苦労も語られる。それだけ苦労したからこそ「ピープルvsジョージ・ルーカス」でファンが触れていた過去の特殊効果を現代の技術に取り替えることはどうかという問題について考えさせられる。彼にとっては昔出来なかったことを補正し、完璧にしようとしているだけなのだけど。

劇中、多く語られる通りデジタルに限界はなく、これからも進化し続ける中で可能なことはどんどん増えていく。既にフィルムカメラは製造が停止され、5年後にはフィルムが例外的になり、いずれ消えてしまうという風に多く語られていた。
しかし、意外なことにデジタルは保存に問題があり、フィルムの方が保存に適切という皮肉な事実も語られるが、それもいつか解決するだろうという楽観的な見方が大方のよう。

観る前はフィルムにしか出せない良さはあるのだろう、というように漠然と思っていた。けれど、いつかデジタルがフィルムで可能なことを全て可能にするのではないかという未来をこのドキュメンタリーでは感じさせる。ただ、フィルムでの失敗の許されない状況下での緊張感は真似できないところか。
実際のところ、近年フィルムで撮られた作品とデジタルのものとの違いは自分には分からない。ノーラン監督はいつまであの硬派なフィルム主義を突き通していられるのか。

企画製作インタビュアーのキアヌに感謝、キアヌ良かったです。

【余談:ウォシャウスキー姉弟】
「クラウド・アトラス」のときにウォシャウスキー兄弟について調べているとウォシャウスキー"姉弟"となっていて、今まで勘違いしていのか!そんなはずは…と思いきや、お兄さんがいつの間にかお姉さんになっていた。この映画では完全に女性にしか見えない見た目・仕草、ある意味必見。