ただのすず

100万回生きたねこのただのすずのレビュー・感想・評価

100万回生きたねこ(2012年製作の映画)
3.8
「私が愛する人はみな死人である」

200万部以上発行している佐野洋子さんの絵本『100万回生きたねこ』
前半は絵本の思い出を持っている女性たち、後半は逝去した佐野洋子さんの故郷北京や愛した軽井沢の風景と共に彼女の言葉と人生を見つめていく。
幼い頃から近親者の度重なる死が身近にあった彼女が、絵本の冒頭のフレーズが突然頭に浮かびあっという間に描き上げたというのは必然のように感じた。
風が吹いて流れていくように生と死について語られていて、淡々と、それでいて深い愛を感じてとても好きに思った。

私もこの絵本がどちらかと言えば嫌いだった。
沢山の人に愛されていたのに、その人たちをちっとも好きにならない猫が我儘で嫌いだった、なのにこの猫をどうしようもなく魅力的に思う。だからずっと心の端にいた。どんな人がこの猫を描いたのだろうずっと思っていた。従属せず執着せず自分の愛したいものを愛する佐野洋子さんはまさにこの立派なトラ猫そのものよう。
人間が望んでいるものはちっぽけで素朴なもの、誰かを愛して、子供を産み、家族を持ち、末永く一緒に暮らす。いや、人には色んな幸せがあるはずだ、そう思いながらも、トラ猫と白猫が寄り添う姿に焦がれる。
だから沢山の人たちがこの絵本を傍らに置き続けるのかなと思った。


野良猫が沢山撮られていて、そのガラス玉のような硬質な瞳が印象的。
天から粉雪が雪崩れるように降る軽井沢の冬景色もとんでもなく美しい。音も素敵。