プペ

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日のプペのレビュー・感想・評価

4.8
美しい動物たちを背景にして、オープニングクレジットのフォントが軽やかに、踊る。
その秀麗で愛らしいオープニングを目の当たりにした時点で、「ああ、これは良い映画だな」と確信めいたものを感じるとともに、この映画は長い年月に渡って多くの世代に愛されるべき映画となるだろうとまで思えた。

やはりまず特筆しなければならないのは、圧倒的に美しい映像世界。
今作を映画館という環境で鑑賞した人間は本当に幸福だったと思う。
ゆえに、映画感のスクリーンで観なかったことがとても悔やまれる。

「神が許してくださるのであれば、過去の自分を殴りに行きたい」
無神論者な私にそんな言葉を吐かせる今作は何事か。


映画として素晴らしいのは、その“美し過ぎる”映像世界そのものに、ある明確な意図が存在するということ。
嘘みたいにリアルに息づくトラの造形、嘘みたいに美しく壮大な自然の姿、そして嘘みたいに奇跡的な冒険譚……。
そのすべてに、この物語が語るべき本当の意味が含まれているのだと思う。

鏡面化する水面では空と海との境界が無くなり、映画世界に放り込まれた自分自身が一体何処にいるのか分からなくなる。
海面に映る自分を見つめる主人公は、次第に実像と虚像の境界を見失い、溶け込み、あらゆる生命と入り交じり、共に漂流するトラと一体化する。

旅の中で突如嵐に遭い、家族を失い、一頭のトラと共に果てしない漂流生活に突入した主人公。
その壮絶なサバイバルというエンターテイメントの果てに描かれていたことは、「信仰」というものの本質だった。
それは、宗教的な概念に留まるものではなく、数多の神々の存在を等しく信仰して成長した少年が、己の生命をかけて辿り着いた真理だったのだと思う。

「生きることは、失うこと」と、自分の人生を顧みた主人公は言う。
そこには特別な悲観も楽観もなく、達観した彼の瞳には何の迷いも戸惑いもないように見えた。
この映画は、「何を信じればいいのか?」という人間が持つ根本的な“惑い”に対して、「あなたが信じたいものは何なのか?」ということを真っ向から問いかけてくる。

きっとそれに対する答えは人それぞれで、きっと何度観てもべつの答えが導き出されるだろう。
重要なのは、何が正しいのかということではなく、“何を信じるのか”ということなのだろうと思う。


冒頭にも記した通り、この映画は老若男女問わず様々な年代の人間が様々な価値観において楽しめる作品だと思う。
プペ

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