ざわゾンビ

ザ・マスターのざわゾンビのレビュー・感想・評価

ザ・マスター(2012年製作の映画)
3.9
ホアキン・フェニックス、フィリップ・S・ホフマンというクセの強い俳優の共演です。

精神を病んでしまった退役軍人と、新興宗教の教祖(マスター)のお話。

この作品は、人生賛歌でも、ヒューマンドラマでもない。
むしろ、そこにあるのはある種の諦めだ。

兎にも角にもホアキン・フェニックス演じるクエルの生き様が壮絶この上ない。
所構わず酒を飲み、ムラムラすれば女を抱き、仕事はすぐにほっぽり出す。
結婚を誓った女さえ、ウジウジした挙句ほったらかし。
無責任を体現した様な男だ。

こいつがP.S.ホフマン演じるマスターに出会い、マスターは彼を救済しようとする。
ここまではありがちな展開だが、クエルは全てをぶち壊す。

彼は、何かに縛られたまま生きていける男では無かった。芯から自由な男なのだ。

クエルは彼の道を行く。
マスターも彼の救済を断念し、己が道を進んで行く。

マスターの惜別の歌に心が震えた。
お互いが寄り添い、必要としていた時間があっただけに、このシーンはあまりにも切ない。

クエルという無茶苦茶な男と、マスターという繊細で重厚な男を演じた両俳優の演技は圧巻の一言。
また、団体の実権を握っていたマスターの妻を演じるエイミー・アダムスも素晴らしかった。

万人受けする作品ではないものの、個人的には特別な作品のひとつ。
ポール・トーマス・アンダーソンの魔法に、僕はまたもやかかってしまった。