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風立ちぬのKUBOのレビュー・感想・評価

風立ちぬ(2013年製作の映画)
4.5
 スタジオジブリ最新作『風立ちぬ」。宮崎駿が手がけた初めてのファンタジーではない作品は如何なるものか? 大きな期待を胸に試写会場に足を運んだ。

 冒頭、ジブリらしいデザインの飛行機に乗って空を飛ぶシーンから始まる。「ん? やっぱりファンタジーか?」今までにもジブリ作品には必ずと言っていいほど空を飛ぶシーンが印象的に使われてきたが、今回は零戦の開発者、堀越二郎の半生を描く作品だけに、空想シーンも含めて空飛ぶシーン全開だ。

 また関東大震災のシーンが克明に描かれるが、二郎たちが避難してくる上野の山、上野広小路を行き交う人の波、その描き込まれた、人、人、人の物量に圧倒された。また路面電車や自動車など、CGではない手描きのアニメで再現された昭和初期の街並みはまさに永久保存版だ。

 物語は後半から、堀辰雄の小説「風立ちぬ」の世界と融合して行く。小説「風立ちぬ」は1937年に出版された小説で、結核におかされた妻と夫が「死」に向き合いながらサナトリウムで暮らして行く生活を描いた作品である。

私はこの小説は「死」と「死にゆく病身の妻と我が身の運命」に陶酔しているようであまり好きではないが、宮崎駿はこの「堀辰雄」に同時代を生きた「堀越二郎」を重ねることで、作品に大きな変化をもたらした。「死」を見つめ続ける男ではなく、自分の夢を追い続ける男と重ねたことで、作品に「夢」と「生」を与えた。素晴らしい改作だと思う。

 ただ今回の作品は完全に大人向け。作品内に登場する「計算尺」なんてものが説明もなしに分かるのは私のような50代以上の人間。今までのジブリのファンが、今まで通りを期待して見に来たら、たぶん全然違う。夢を見続けて実現する男と、その男を愛した薄幸の少女の優しい愛の物語。大人向けです。

(余談ではあるが、主人公の声をあのエヴァンゲリオンの監督、庵野秀明氏がやっているのが話題になっているが、だんだん慣れてはくるものの、どんな顔してこんなシーンのアフレコやってたのかと、ついついあのヒゲ面が思い出されてしまい、物語の世界から度々引き戻されてしまったというのが率直な感想である。)

鑑賞日:7月9日
場所:よみうりホール
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