サマセット7

キャビンのサマセット7のレビュー・感想・評価

キャビン(2011年製作の映画)
4.0
監督・共同脚本はTVドラマ「LOST」や「クローバーフィールドHAKAISHA」の脚本で知られるドリュー・ゴダード。
共同脚本に「アベンジャーズ」「アベンジャーズ/エイジオブウルトロン」の監督脚本を手がけたジョス・ウェドン。
主演は「ハプニング」「ザ・ベイ」のクリステン・コノリー。

[あらすじ]
山奥の別荘に泊まり込みで遊びに来た5人の大学生は、地下室で多数の奇怪な道具を見つける。
デイナ(コノリー)がそこにあったペイシェンス・バックナーなる少女の日記中の一節を読んだことで、呪われしバックナー一家による殺戮の夜が始まる…。
…一方その頃、白衣を着た管理者然とした集団が、多数の監視カメラの映像を前にして、様々な取り組みを行なっていた。
カメラに写っているのは、デイナら5人であった…。

[情報]
2013年公開のホラー/スリラー/コメディ映画。

製作予算3000万ドル、興行収入6600万ドル。

製作にあたったMGMの経営難から公開が遅れ、配給権を獲得したライオンズゲートにより公開された経緯がある。

監督・脚本ドリュー・ゴダールは、TVドラマLOSTで知られる曲者脚本家。

評論家から、ジャンル映画には珍しく、極めて高い評価を受けている作品。
一般層からの支持はそれなりである。

[見どころ]
予測不能な展開の妙!!!
「ホラー映画のお約束」を解体し、新たなナニモノかを創り上げる発想!!
ホラー映画マニア垂涎のネタの乱打!!

[感想]
タイトルの印象から、なんとなく「キューブ」の類似作品かと思っていた。
近い部分もないではないが、今作中盤まではどちらかというと、トゥルーマンショウのような作品である。
また、全編に通底する精神は、スクリームと似通っている。

原題は「cavin in the woods」。
すなわち、森の中の山荘、だ。
いかにも、80年代以降乱造されたホラー映画の舞台っぽい。
そのとおり、今作の「山荘」側視点の展開は、途中まで過去のホラーの名作、「死霊のはらわた」や「13日の金曜日」をなぞる。

他方、序盤から山荘の5人は、知らぬ間に、「管理者たち」の監視と干渉を受けていることが明示される。
管理者たちはモニターごしに、5人を観ている。
さらに、その様を我々観客が観ている、という入れ子構造になっている。
管理者視点のテイストは、コメディだ。
他者が犠牲になる様を安全な場所から見つめることの娯楽性が暗に示される。

しかし、管理者たちも 映画の登場人物として配置された以上、ただ娯楽に興じる者ではいられない。
かくして、今作の中盤以降、予測不能の展開が巻き起こり、終盤の盛り上がりは想像の斜め上をいく。

今作を牽引するのは、「なぜ、管理者たちは、山荘に入ってきた5人の若者を監視し、わざわぞ混み入った手順を踏んで、怪物に殺させるのか?」という疑問である。
この疑問は、そのまま、ホラー映画のお約束に対する疑問になっている。
すなわち、なぜ、わざわざ、若者たちが、湖畔の山荘などという、いかにもな場所にやってくるのか?
マッチョ、ビッチ、ガリ勉オタク、麻薬中毒、処女といった典型的な者たちが集まるのはなぜか?
彼らはなぜ、警告を受けているにもかかわらず、「禁じられたナニカ」をしてしまうのか?
スポーツマンやビッチが先に殺されるのはなぜか?
彼らはなぜ、危機にあって、不合理な行動をとってしまうのか?
これらの、通常のホラー映画では「お約束だから」の一言で片付けられてきた疑問に今作は答えてみせる。

色々な意味で、今作は古今のホラー映画やホラー小説などに通じた者が観ると、より楽しめる作品である。
オマージュ、パロディ、引用は全編に横溢している。
さながら、ホラー映画マニア向けのファンムービーだ。
より前提知識のある評論家の評価が高く、一般層の評価とギャップがあることにも頷ける。

他方、殺戮シーンは画面自体が暗く、故意にガチャガチャと編集されていて、何が起こっているか分かりにくい。
要するに、ちゃんと見せるつもりがない。
今作の主眼が、ゴア描写や恐怖心理の演出、集団の疑心暗鬼といった、通常のホラー映画のウリにないことは明らかだろう。
ここに期待して見ると、裏切られた気持ちになるかもしれない。
ホラー映画マニア向けの映画にも関わらず、マニアこそ好むホラー演出に主眼がない、というのは難しいところだ。

個人的には、全編飽きることなく楽しんだ。
大ネタが出てきてニヤリとしたり、あの役者の登場にマジか!?となったり。
短い尺も好ましい。
結末も含めて、支持したい。

[テーマ考]
今作は、ホラー映画でよくあるお約束って、なぜあるの?という問いに答える作品である。
さらに進んで、ホラー映画のお約束って、誰のためのもの?という問いに目を向けさせる作品でもある。
ホラー映画の犠牲者たちは、実際には、誰によって殺されたのであろうか。
今作は、全体として、従来のホラー映画に対する批評になっている。
ホラー映画といえども、旧態依然としたお約束に安住できる時代ではなくなった。
その意味で、現代的な作品である。

[まとめ]
ホラー映画のお約束に鋭く斬り込む、新感覚のスリラー/コメディの良作。
スポーツマン役は、アメコミヒーロー・雷神ソーとしてMCUで大スターとなった爽やかマッチョなクリス・ヘムズワース。
怪物に襲われようが、全然死にそうに見えないのが面白い。