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愛、アムールのpikaのレビュー・感想・評価

愛、アムール(2012年製作の映画)
4.5
見終わってこれまで感じたことのない感情に覆われ、思考という意味でも全く言語化できず、喜怒哀楽と言った画一された感覚ではない独特な余韻に浸った。

愛の終着点ではなく到達点を描いた見事な切り口で、愛という表面の奥に人間とはっていう深遠までをも考えさせられる。
人はどこまでが人なのか、人は何を持って存在していると言えるのか、本人の認識か家族の名残か愛ゆえか、
安楽死という選択肢もなく人の手にも委ねたくないという感情の狭間で、医療や介護という形で生存し続けることができるこの世界に於いての生きることという意味と、それを成し遂げる側の家族という立場の感情を不純物ゼロの状態で真っ向から描き出す。

社会という括りで見れば身近である問題でも、この映画の通りに娘という近親さでも偽善や欺瞞に成りかねないリアル。
人生を何十年と連れ添った夫婦にとっての愛は、人生のその時々に於いて形を変えて積み重ねてきたものだと、互いの結晶のように感じられるものの到達点にて訪れる究極とは、交差してきたことが奇跡であり、本当は常に自分の主観でしかなかったのではないかとガシガシ問われ続け絶望的にすらなる。
一周回れば当たり前のことだけど、「愛」という言葉の前ではそれを美しいものとして在って欲しいと願う人間のフィルターがあるのだろうか。
老老介護の物語として見るとあまりに全てが美し過ぎるが、人間のイメージする「愛という美」を根底から反証することで本当の意味での愛を観客の心の中に問うているような。

ハネケの神業長回しと淡々と描写する徹底したリアリズムを、演技とはとても思えぬ名演で華を添え見事な化学反応を起こしていてハンパない。
幻想シーンが大好きな者としてハネケによる夢や幻想描写を見ることができて感動。意味も意図も演出も素晴らしかった。

映画に自分の精神が全く追いついていないので余白を残し-0.5点、年をとるごとに何度でも見返して味わいたい。傑作。
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