櫻子の勝手にシネマ

アンナ・カレーニナの櫻子の勝手にシネマのレビュー・感想・評価

アンナ・カレーニナ(2012年製作の映画)
4.0
19世紀末のロシア。
政府高官のカレーニンの美しい妻アンナ・カレーニナは、モスクワへ向かう道中で騎兵将校のヴロンスキーと出会う。
一瞬で互いに惹かれ合った2人は舞踏会で再会。
アンナは欺瞞に満ちた社交界と家庭を捨て、破滅的な愛に溺れていく…。
ジョー・ライト監督作品。

「幸福な家庭はすべて互いに似かよったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである」
この有名な文章で始まる文豪トルストイの名作『アンナ・カレーニナ』は、トルストイの作品の中でも最も広く諸外国で愛読されている作品だろう。
私が始めて読んだのは14歳の時。
学校の図書館で借りて一気読みしてしまった。

政府高官を務める夫カレーニン(ジュード・ロウ)と一人息子セリョージャと共に、サンクトペテルブルクに暮らすアンナ(キーラ・ナイトレイ)は、社交界に咲いた華麗な大輪の花であった。
兄の浮気が原因で壊れかけている兄夫婦の関係を修復するためにモスクワへ向かう道中、アンナは騎兵将校のヴロンスキー(アーロン・テイラー=ジョンソン)と出会う。
18歳で恋のときめきも恋の痛みも知らずに結婚したアンナにとっては始めての恋。
自制心を働かせようとするも、舞踏会で再会した時には燃え盛る情熱を止めることなど不可能。
恋に狂ったアンナは夫も子供も捨てヴロンスキーとの愛に落ちていくが、それは同時に破滅へと向かうことになる。

恋は「する」ものではなく、「堕ちる」もの…と聞いたことがあるが、本作はまさに「恋に堕ちる」瞬間を描いている作品だろう。
恋に堕ちると、時間が止まったようになったり、周りが全く見えなくなってしまう。
アンナとヴロンスキーが恋に堕ちる舞踏会のシーンでは、周囲がストップモーションで止まったり、周囲が全て消えて2人だけが踊り続ける。
独創的なダンスと美しい2人が見事に融合し、恋に堕ちる瞬間を素晴らしい映像美で表現している。
このシーンだけでも十分に満足できる。

トルストイの『アンナ・カレーニナ』が優れているのは、単なるアンナの悲恋物語に終わっていないことだろう。
アンナとヴロンスキーの報われぬ激しい恋と平行して、リョーヴィン(ドーナル・グリーソン)とキティ(アリシア・ヴィキャンデル)の恋も描いていることである。
虚偽に満ちた上流社会の都会生活と、地方地主の明るい田園生活の対比も面白かった。

大胆な舞台演出、豪華で優美な衣装、人物の心の動きを表現する音楽と振付、美しく華やかなアンナとヴロンスキー。
どれもが素晴らしく、とても贅沢な130分を過ごすことができた。
ただ、1つだけ不満なところは全編英語だったこと。
これがロシア語だったら間違いなく満点つけていたと思う。