アキラナウェイ

ヒッチコックのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

ヒッチコック(2012年製作の映画)
3.9
"サスペンスの巨匠"
"スリラーの神様"

アンソニー・ホプキンスがアルフレッド・ヒッチコック役。

ヒッチコック作品は幾つか観ているけれど、彼自身がどんなフィルムメーカーなのかはよく知らない。これは好機とDisney+で鑑賞。

描かれるのは1960年公開作品「サイコ」の製作舞台裏。

「北北西に進路を取れ」が公開され、ヒットしているが批評家の評価は芳しくない。次回作の構想を練るヒッチコックの目に留まったのは、実際に起きたエド・ゲイン事件に着想を得たロバート・ブロックのスリラー小説「サイコ」。パラマウントもエージェントも出資に難色を示すが、ヒッチコックは屋敷を担保に入れて自費で製作する羽目に—— 。

観客にラストを知られたくないからと、本屋から「サイコ」の原作小説を全て買い占めるなんて、やる事がもはやサイコなんだけど!!

画家が自身の作品にサインを残すように自らチラリと映るカメオ出演が定番のヒッチコック。彼自身を僕はよく知らないけど、シルエットは知っている。そう、本作のアンソニー・ホプキンスもでっぷりと膨れたお腹が特徴的。

自信家で独善的。パラマウントやエージェントと衝突する事なんて日常茶飯事。ふてぶてしい態度と、どこか虚ろな瞳のヒッチコックをアンソニー・ホプキンスが見事に演じ上げている。

実際の殺人事件に思いを巡らし、殺人鬼に魅せられ、幻覚を見るようにその殺人衝動に惹かれていくヒッチコック。虚ろな瞳を浮かべるのはその為だ。

もう1つ、彼の頭を悩ませるのは妻アルマ(ヘレン・ミレン)の浮気にうっすらと気付き始めている事。

浮気が決定的となった瞬間、受話器を握って呆然とするアンソニー・ホプキンスの演技に目を奪われた。

アルマに喧嘩を吹っ掛けたヒッチコックに対し、30年もの間献身的に夫を支え、マスコミに肘で押しのけられ、影に隠れて耐え忍んできたアルマの鬱憤が爆発するシーンがまた素晴らしい。ヘレン・ミレン、流石の一言である。

有名なシャワーシーンの裏側も。
サイコのヒロイン役ジャネット・リーを演じるは、スカーレット・ヨハンソン。ヒッチコックの演技指導で、監督自らが彼女に切りかかり、堪らず上げる悲鳴がお見事。

「サイコ」の誕生秘話でありながら、これはヒッチコックとその妻アルマの愛の物語。

アカデミー監督賞に5回ノミネートされるも、受賞する事は一度もなかったそうで、オスカーに縁がなかったのは意外。

本編のラスト。

次回作のインスピレーションが降りてこないと言いながら、彼の肩にカラスが止まる演出に思わずニヤリ。