スガシュウヘイ

さよなら渓谷のスガシュウヘイのレビュー・感想・評価

さよなら渓谷(2013年製作の映画)
3.0
人は自らすすんで不幸を求める場合がある。

加害者と被害者が同棲するなんてあり得ない、という意見もあるが、私は割としっくりきた。


人は居場所を求める生き物。他に居場所があるのなら、もちろん加害者と同棲なんてしない。ただ、自分に贖罪と許しを求める男それ以外に、自分を見つめる人がいないとしたら。生きる意味を見失っていた所に、「その男を許さない」という「生きがい」が、生まれたんだとしたら。

尾崎かなこにとって、男はある種の「生きがい」になった。


独特な愛の描き方。


また、心理学的にいうと、心の奥の方で「不幸」を求める人って、実は少なくないようだ。
なぜ不幸を求めるかというと、不幸になれば、「自分は人とは違う」という特別感を得られるから。
そして「不幸自慢」ができるから。


「私は過去に強姦されたことがあるの。そのせいで、何もかもうまくいかないの。」不幸を理由にすれば、多少のことは許される。同情が得られる。


尾崎かなこは、そういう理由で不幸を求めていたわけではないが、「幸せになろうと思って一緒にいるんじゃない」というセリフは、私には違和感なかった。


要するに、誰もが純粋に幸せだけを求めているわけではないということ。
人には時に、不幸を求める矛盾した心があるということ。


全体的な事をいうと、深刻なシーンが多くて、見ていて非常に疲れた。
息抜きのない映画。
渓谷の大自然も、見る側が疲れていては癒されません。
(別に癒したい訳ではないか、。)


終盤、渓谷の橋の上を歩く赤いシャツの真木ようこ。緑の中に映える赤。このショットは抜群によかったが、終盤は疲れてしまって、それどころではなかった笑。


公開:2013年
原作:吉田修一(『悪人』『横道世之介』)
監督:大森立嗣
出演:真木よう子、大西信満、大森南朋