【廣木監督ならではの映画】
難病もの+記憶喪失もの、という映画です。
この映画の特質は、筋書きもさることながら、廣木監督の意識的な映画作りにあると思います。
まず、音楽があまり使われていないこと。この種の映画ではムードを盛り上げるために音楽が濫用されがちですが、ここでは音楽抜きの場面がほとんどで、それが一種の日常性というか、ふつうの日本人の若者同士が日常の中で出会い愛情をはぐくんでいくリアリティのようなものを感じさせることに寄与しているのです。
次に映像。ショットがなかなかいい。特に室内シーンでは意表をつくような場所からカメラを回し、また照明を抑え気味にしているので、やや暗い感じがしますけれども、下手に明るくして分かりやすすぎるというか平板で陰影を感じさせない場面に成り下がることをたくみに回避しています。
この映画は以上のような、廣木監督の映画作りの特質を味わうべき作品でしょう。
筋書きも悪くはありませんが、最後のあたりで盛り上がるべきところ、ややもたつく感じがあるのが残念。これもフィクションになり過ぎない日常性を追求した結果なのかも知れませんが、あくまで記憶喪失+難病という、若い男女の恋愛ものでは定番ともいえる設定の作品なのですから、そこは素直に盛り上がらないとね。