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セデック・バレ 第一部 太陽旗のodyssのレビュー・感想・評価

4.0
【原初の野蛮vs.文明の野蛮】

台湾を日本が統治していた時代に、先住民(現地では原住民というらしい)が蜂起したという、歴史的事実に基づいた映画です。

日本の併合に反対する台湾人による抵抗運動はこれ以前にも起きていますが、これは平地に住む漢人・文明人(?)ではなく、山地に住む先住民による叛乱であるところがミソ。

そのため、まず先住民の日頃の暮らしが描かれています。狩猟による生活、そしてそれは男が自分が一人前であることを示す場でもある。部族間の抗争もあり、倒した敵の首を斬り落とすことが勝利の証し。そう、彼らは首狩り族なのです。

この映画、特に第一部が面白いのは、そういう先住民の暮らしや部族間の抗争がしっかり描かれているところでしょう。私は台湾の歴史にはうといのですが、日本併合以前には山地に住む先住民への文明化政策はとられていなかったらしい。独自の風俗と倫理によって生きてきた彼らが、日本人による文明化政策、そして差別に反感を募らせていく様は、なかなか説得的です。

大事なのは、先住民族の暮らしが、上記のような野蛮さや血なまぐささを備えたものだったということ。逆に言えば、だからこそ武器や装備で圧倒的に有利な日本軍にあえて立ち向かうことも可能になったのではないか、と思われることです。

この映画のパンフを読むと、「彼らは山深い桃源郷で大地と共存し、周囲の動植物と調和を保ちながら生きていた。その一方で、戦った相手の首を狩る”出草”という古くからの風習も残っていた」なんて書いてあります。これ、いかにも近代主義的で偏見に満ちた甘っちょろい解説だと思いますね。私の見るところ、彼らが狩猟民族であることと首狩り族であることは密接に結びついている。首狩り族のプライドがあればこそ、文明化されるままになってはいなかったのです。

そういう、いわばパラドックスに満ち満ちているからこそ、この映画には少なからぬ迫力と真実味が生まれたのだと思う。単に虐げられた可哀想な(清く正しい)少数部族が圧政を敷く宗主国にさからったという、勧善懲悪のお茶の間ドラマ的な筋書きなら、無難だけれど所詮は無難なだけの映画にとどまっていたでしょう。

血なまぐささに満ちた原初の野蛮と、文明の野蛮との対決。そこにこの映画の妙味はあると言うべきでしょう。
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