このレビューはネタバレを含みます
これもまるっきり日本盤DVDパッケージの絵と中身が違う。星条旗も国会議事堂も自由の女神も出てこない。そういったものとは無縁の話。
原題 Southern Gothic。ストリップ・バーがポツンとある田舎町。そこの常連に自らの悪に魅入られ懊悩する牧師がいる。その牧師を流れてきた吸血鬼カップルが襲う。狂気の匂いを嗅ぎつけたように。と牧師は襲った二人の想像を超えた化け物になる。吸血牧師は教会を極右カルト化し、町の浄化の名のもとに信徒と共にストリップ・バーを血の海にしてしまう。難を逃れたバーのアル中用心棒と、最初の吸血鬼の片割れが列を組んで、カルト教会退治に向かう。暗い過去を背負い「生きているのに死んでいる」アル中と「死んでいるのに生きている」吸血鬼の、任侠映画めいたふたりづれ。用心棒がかつての自分を取り戻すために闘うのはわかりやすい。一方、吸血鬼は連れの敵討ちだけでなく、神様がいない世界では自分が存在出来ない、その理由から神様のためにカルト教会と闘う。捻れた理屈が面白い。が、その観念性で躓く人も出て来るだろう。
映画はそんな奇妙な物語を、ノワール風の画面で静かに淡々と描く。もう少し画角が厳しかったり編集が締まっていたらと思いつつも、このややぼんやりした盛り上がりきらない語り口が魅力にも感じる。インディペンデント吸血鬼映画の風変わりな佳作。この監督の名前は覚えておこう。