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ペトラ・フォン・カントの苦い涙の1000のレビュー・感想・評価

3.7
心理的にはもうスプラッターとしてカテゴライズしてもいいぐらい、残忍でグロテスクな映画だ。
若いギャルに手を出した中年女がこっぴどくふられてガン萎えするだけの話なのだが、物言わぬ召使いの存在が映像を引き締めている。中年女と召使いの同性愛的な主従関係は、「煙が目にしみる」に合わせて中途半端なダンスを踊った後、曲も終わらないうちに命令をくだされる長回しにおいて、序盤から開示されている。この気味が悪いほど従順な召使いは、しかし、女主人が人と会話し、音楽を流している最中に、バカでかい音でタイプライターを叩くのだが、女主人もそれを意に介さない様子だ。そして、喋らないのにずーっと画面の中にいる。その構図が、性交するマネキンの側に別のマネキンが立っている構図によって反復されるのは、いやはや巧みだ。
中年女とギャルの破局は予定調和的で、通り一遍の愛憎、嫉妬、後悔を開陳するだけなのだが、中年女と召使いの破局はあまりにも唐突でぎょっとさせられる。それは、示唆されつつもなかなか信じがたい類のマゾヒズムが、突如として明確化されるからだろう。心の整理が追いつかないまま、暗転し、映画は終わる。

ハンナ・シグラは本当にいい女優だ。悪い顔してる。
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