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私の男のregulusのレビュー・感想・評価

私の男(2013年製作の映画)
4.0
白樺の木立に。白いシャツに。雪原と流氷がきしむオホーツクに。血の雨が降るのがみえた。「愛」と「道ならぬ恋」との境はどこに。一息吸い込むだけで、鼻の奥を抜けて目頭につんとくる、凍てついた空気を知っているから、涙は堪えられた。

足りない愛を埋めあっている淳悟(浅野忠信)と花(二階堂ふみ)。狂気的に手に入れたい、という生々しく煮えたぎるような感情が、凍てついた大地をうごめいている。飢えた者同士の共依存というか。濃い血の求心力が背徳感すら快感にしているとでもいうか。

やさぐれていく淳悟は、ひたすらに哀愁を帯びていき、美しく成長していく花は、自身の危うさを達観でつつみながら、淳悟をも飲み込んでしまいそう。主演の2人に漂う濃密で刹那的な空気は見もの。これ以上の感想は、なんだか圧倒されてうまくまとめられない。

赤と白にまとめられたベッドシーンの映像がとても美しくて、これはもしや、と思った映像は、やはり近藤龍人氏の撮影。「夏の終り」、「横道世之介」、「そこのみにて光輝く」ですっかり覚えた撮影監督さん。流氷も血しぶきもレストランの異次元感もあますところなく堪能した。

「海炭市叙景」と「夏の終り」をみた率直な感想として、熊切監督の撮る映画はあまり得意なタイプではないと思っていた。独特の間合いを流れていく登場人物たちの感情を自分の想像力で補い切れずに、一歩引いてしまうことが多かったので。だから、「私の男」は、正直、映画館で観るか迷いつつ、でも、評判がすばらしかったから気づいたら劇場に。映画館で観てよかった。ちなみに原作は未読。
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