regulus

そこのみにて光輝くのregulusのネタバレレビュー・内容・結末

そこのみにて光輝く(2013年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

<スクリーンから愛がにじみ出る>

達夫を演じる綾野剛、千夏を演じる池脇千鶴、千夏の弟の拓児を演じる菅田将暉。3人が役それぞれの「不器用な愛」を体現し、すばらしい演技を見せている。描かれたのは、ハートマークが飛び交うような愛ではない。熱くなる目頭をかばうように瞼を伏せて、相手をひしと抱きとめたくなるような愛だ。

3人の出会いから、無為にさまよっていた達夫は千夏へ魅かれて変わりはじめ、千夏や拓児に対する愛を原動力に行動するようになっていく。達夫と千夏は、これまでの背景も含めてお互いを受け止めあった後に抱き合い、苦境を越えて生きる意志を確認する。この描写は、軽々しくラブシーンと呼ぶのがはばかられるほどに静謐で、官能的でないにもかかわらず必然性に満ちている。

一方、拓児が引き起こす事件の原動力もまた、彼のあまりに幼すぎる純粋な愛なのだ。だが、やりきれない現実に直面しながらも、拓児を受け止める達夫がいることに一筋の光がある。達夫が拓児に向き合う一連の下りは、二人とも圧巻の演技だ。

家族を思っているとはいえ、寝たきりの父の世話に疲れ切ってしまってもがく千夏もまた、達夫が辛うじてつなぎとめる。苦しさを背負い、それでもその先へ踏み出そうとする達夫と千夏。ラストシーンで浜辺に立つ二人からは、ほんのりと光がにじみ出ているようだった。

ストーリーは原作から大きく書き換えられているが、達夫、千夏、拓児のキャラクターがしっかりと引き継がれているためか、フラストレーションは不思議なくらいに感じない。役者の芝居のうまさはもちろんのこと、達夫の妹から届く手紙の折り込み方が、千夏たちの生活とうまくコントラストになっているなど、脚本・演出も効果的で、音楽も美しい。そして、そのような積み重ねの上に創り上げられた映画だからこそ生まれる空気感は、劇場のスクリーンでこそ、存分に堪能することができる。しっかりと見つめるのは胸が苦しい、それでも、目をそむけるわけにはいかない。作り手の気骨溢れる一本だ。
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