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日本で一番悪い奴らのregulusのレビュー・感想・評価

日本で一番悪い奴ら(2016年製作の映画)
5.0
『日本で一番悪い奴ら』の公開を知ったのは『ブラック・スキャンダル』を楽しみにしていた時期だったと思う。FBIの情報屋になって成り上がるバルジャー(ジョニー・デップ)の迫力と背筋が凍るような展開のスーパーシリアスな作品(実話)。だから、同じように徹底した重々しいシリアスさの上にしか成立しなさそうな筋(これも実話)に、邦画でそんなヘビーな作品ができるものかと少し心配した。悪ノリ全開にみえるポップな特報を観た時、もう方向性から完全に間違えたのじゃないかと思って、もっと心配した。公開初日に観てきた。すべては杞憂だった。

圧倒されるような映画を観た時、その魅力をあますところなく伝えられるような感想を書きたい、と思う。けれどこの作品についてそういうことができるほどの人生的な厚み(淀みから極みまで)が私にはない。実在する主人公の人生がある上での作品だから、ストーリーを分析するのも違う気がする。だから、ただ素直に感想を書く。原作の『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』は未読。

開始3分のスタイリッシュなオープニングから完全に釘付けで、これは絶対おもしろい!と確信。その期待は、エンドロールが終わって劇場が明るくなるまで裏切られなかった。軽さも重さも、声を出して笑ってしまう瞬間も息を詰める時も、あらゆる緩急のバランスがパーフェクト。白石監督が言うように、これは役者の映画だ。同時に、役者たちに寄り添う、妥協を許さない監督以下最高のチームがいるだろうこともわかった。とにかく隙がない。だから、映画の世界から現実に戻る暇がない。

正義のために悪に手を染めていく諸星を演じた綾野剛について書きたいのだけれど、役と綾野剛をうまく結び付けられなくて書けない。あのスクリーンにいたのは諸星だった。よしよしがんばれ、ってなぜか応援しそうになる時も、うわぁぁぁって、直視し続けるのが苦しいのに目を見開いて見入ってしまう瞬間も、諸星がそこで生きていた。時に生き生きして、時にぎりぎりのところを這いつくばっていたりして。熱にうかされたように爆発する諸星と仲間のSたちが過ごすとんでもない日常から、目が離せなかった。

諸星が語るラストシーンからのエンドロール。胸より下のおなかのあたりに、ずっしりとした重さが広がった。あんなに笑いながら観ていたはずなのに、いつの間にかすっかり別の世界に入ってしまっていた。空気が変わったのは、例のシャブを打った時だと、ようやく気づく。「人間やめることになるんだぞ」と、いつか諸星が誰かにぶつけた言葉の意味が、あの時間にぎっちり凝縮されて詰まっていた。

軽くはない。実話だと知っているからなおさら。転落の勢いに押し流されるままに幕切れを目撃しながら、それでも途方もなく沈み込んでしまわないのは、清濁併せ呑まずには送れない毎日を軽快に包んでくれるような主題歌、『道なき道、反骨の。』のおかげだろうか。
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