佐藤泰志の原作を読み終えたときの、目の奥までぴりぴりするような眩しさを今も覚えている。映画で描かれた絶妙なバランスの空気感は、まだうまくとらえきれない。感想にしきれない感覚を今浮かぶ言葉にしておく。
鉛色の空に不穏な空気が漂う。傷心の白岩(オダギリジョー)が限りなく消極的に生きている。生きるエネルギーをできるだけ削減するうちに、気だるさをやり過ごすことに慣れすぎて、いつからか干からびてしまったとでもいう風に。
その白岩に水を浴びせるのは、ホステスの聡(蒼井優)。失業保険の延長目当てに通う職業訓練校の同級生の代島(松田翔太)に連れられて入った店で出会った。この3人のアンサンブルに、停滞という穏やかさと居心地の悪さが同居する。
どこか危なっかしい聡に心を引っ掻き回される白岩。2人の間には、ふわふわした甘さとひりひりした緊張感が行ったり来たり。
夢の見方を忘れても、ときとしてまどろみに夢が降ってくる。地に足をつけているのが苦しすぎるときは、自由の渇望の先が逃走でもいい。今からでも、羽を広げたら飛び立てるかもしれない。
普通が何かはわからなかった。けれど、ここではない何処かを求めたら、ナチュラルでいられる場所はよく知った人のところに見つかった。狂ったように思った歯車が、ぴったりと収まる場所。
大人を生きることは、何気ない毎日を繰り返すことだ。聡がいることが、白岩の生活を特別なものにした。それぞれに何かを抱える職業訓練校の同級生たちにも、それぞれの居場所があった。
ソフトボールの試合の声援に挟み込まれた壊れたファンファーレのような音は、子供の頃に見た憧憬を今足元から続く世界につなげてくれるエールになった。ボールを見つめた先は、原作そのままに眩しかった。そこからはじまるだろう何の変哲もない白岩の日常に、激しい生を駆け抜けた原作者の憧れが重なるような気がして、目頭の熱さにも増して胸がきゅうっとした。