Lz

人魚伝説のLzのレビュー・感想・評価

人魚伝説(1984年製作の映画)
4.2
壮絶、残酷、激情。
純白の磯着が真っ赤に染まる時、世界が一転するようだった。純血に染まれるのは、白だけ。
彼女は根から真っ白だったからこそ、あそこまで赤く染まれた。どれだけ汚くてもいいから、真っ赤に染まることで、全ての膿を出し切ろうとした。ただただ切実で、一途。

全ての演技に熱があった。全身で息をしながら満身創痍に駆け回る姿を見続けていたら、少し涙が溢れた。あまりにも苦しかった。激情的に駆け巡り、血に塗れ、呼吸の仕方を忘れながら全身で息をするような、嗚咽するような苦しさの中でどうしようもなく動き続ける演技が、何とも圧巻だった。自分のこの行いも、止められるのなら止めたい、本当は戻ってくるだけでいい、だけれど、叶うことはない。そんなみぎわのどうしようもない心情が、身体全体で表現されていた。

どれほどの憎しみと絶望を抱えて、彼女は夫殺しに立ち向かったのか。身一つでは抱えきれぬ程の怒りと愛が混ざり合い、体現され、激しく散る。
みぎわを演じる白都真理の黒々とした瞳、意志を感じる太い眉、扇情的な唇、乱れた髪。乱暴に男に抱かれる姿は、蠱惑的でありながら、より一層苦しみを増幅させていた。
あの、真顔の様で感情の溢れた表情には、とても目を引かれた。抑えているのに、抑えられていない、みぎわだけの表情。少し棒読みな台詞も、みぎわの若さを感じて良かったようにも思う。とにかく白都真理は素晴らしかった。

これを純愛と呼べるか、誰から見て純愛と呼ぶのか、そもそも呼ぶ必要があるのか。最後の大虐殺は理不尽であるのに、みぎわの満身創痍な姿を見ている間は何故だか、あれが正しいことのように思えてしまった。

水の上の世界はあまりに汚すぎて、海中のくぐもった視界と、音と、息のできないあの空間だけが、唯一美しかった。
蒼く不鮮明な視界や、揺れる海藻や、口から漏れ出て身体を包む泡。酸素がなくても、上の世界で息をし続けるより、この蒼い世界に沈んでしまった方がずっと良いのだと思わせられた。
Lz

Lz