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ゼロ・グラビティのJTのレビュー・感想・評価

ゼロ・グラビティ(2013年製作の映画)
4.6
重力の世界で無重力になって
無重力の世界で重力を生んで
果てしない生命の旅を受けとめて

2019 . 75 - 『 Gravity 』

音も気圧も酸素もない宇宙で事故に巻き込まれ無重力空間に放り出された医療技師のライアンとベテラン宇宙飛行士マットが地球への生還を目指す

Netflixオリジナルの『Roma』を監督した
アルフォンソ・キュアロンによるSFスリラー
2013年に公開された当時は世界的に話題になり
アカデミーでは様々な部門で多くの賞を授賞した
至ってシンプルなストーリーだが高度な撮影と見事な長回し、細部までこだわり抜いた演出に深みのある映像、そして地に足をついた確かなメッセージ性が込められている
アルフォンソ・キュアロンの類稀なる才能は本物だった

重力で引き寄せられて、人と人が惹かれ合って、命が生まれて、命が消えて、重力を失う
地球にいても心は宇宙のように無重力になる
宇宙でわたしたちの生命線は一本の紐
何かにしがみついていないと空気抵抗のない宇宙では僅かな力によってどこまでも流れゆく
地球では人間関係が生命を繫ぎとめる
孤独の中で生命は誕生せず、繋がりを断ってしまえば無気力なまま時間の流れにさらわれる
ライアンはずっと独りで流されていた

暗闇が広がる宇宙は生と死を象徴している
いくつもの命が生まれ続けて沢山の色と輝きに溢れた母なる地球を宇宙は優しく包み込む
地球が生だとして宇宙が死だとするなら
生なくして死はなく、死をなくして生はない
生と死、地球と宇宙は実に密接な関係にあり
宇宙は生と死を繋げ、誕生の象徴だった
真っ暗な夜が夜空の星を輝かせるように
宇宙の中で最も輝くのは生命の光
困難の中でこそ見えるのは希望
死の中で湧き立つものは生の悦び
無重力の中で生まれるのは人間の重力
掴んでは離れていくものを手繰り寄せ
脆弱な命を赤子のように受けとめて
生命と生命は共存して引き寄せ合う
死んでしまった命は空へ行き
宇宙のどこかで星になる
失くしたものを葬るのではなく
失くしたものを哀しむのではなく
失くしたものと一緒に生きる
ライアンは生と死の狭間で総てを迎えいれた
土の感触から水の潤いまで命あるものを肌で感じ
胎児が次第に二本足で大地を歩けるように
果てしない成長を経て進化を遂げると
奇跡のような生命の美しさと尊さを目にする
"結果はどうであれ これは最高の旅だった"
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