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aftersun/アフターサンのJTのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
5.0
あの日この手からすり抜けていったものと、音もなく滑りおちていった日のことを思い出す。誰にも知り得ない想いと誰もが知っている痛みが、決して重なり合わずにいつまでも夜を彷徨い、波打つ海に消える。小さな言葉と小さな気持ちが、計り知れない大きな愛を前に戸惑い、陰を残す。いつもと同じあたりまえの青い空の下で、同じ血の通った人々はどうもすれ違って、黒い雲を空に描いてはその色味を隠す。伝えるべき愛、みせるべき愛、残すべき言葉、きかせるべき言葉、そこにある無数の感情にどこまで意味を持たせ、どれだけの時間をかければその実を結ぶのか。過去をみつめては記憶を塗り替え、枯れた時間に水をやる。救いは、答えはあるのか、そこに何もなくても考える。たぶんそれは怖いからで、空っぽにしたくないからうるさいくらいの疑問で埋める。でもいつしかその考えすらをも諦める時がきて、また海に出る。いつかは呑み込まれて叫び声も届かない底へとおちていく。だからいまは恐怖に縋るのだと思う。暗闇に消えていったあの背中を、これからずっと焼きつけていくのだと思う。
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