IMAXと70mmで3回観ました。同時公開されたバービーとオッペンハイマーの不適切なファンアートのせいで日本で問題になっていて、その表面だけを知った人たちが作品自体を批判していて残念です。そのせいでこの作品を賞賛すること、賛同することさえも悪と捉えられることが本当に危ないなと。この作品はあくまで"原爆の父"と呼ばれたオッペンハイマーという人間を描いた映画であって、"原爆の日"を焦点に置いた映画ではないことが大前提。日本で公開されてほしいけど公開されないとしても頷ける。感情的、私的なレビューはこの作品に合ってないと思うので、映画的な視点で書きます。クリストファー・ノーランの映画はほとんど観ているが、自分の印象としては映像に凝ってそのギミックと世界観のスケールで魅せていると思う。全部の作品がそうではないが、劇中の人間ドラマがストーリーテリングよりやや薄い。しかしこの作品は見事なもので、圧倒的な映像と音で魅せながら、その上に人間のサガがある。科学と発明、国と組織、人間とそのエゴ。回り出した歯車とその連鎖が時代に集約され、人類史と世界の在り方を永遠に変えてしまった事実を一人の男を軸に描き切っている。全てが簡略化されたいまの時代で、ひとつのコンテンツとして消化されず、3時間の大作でありながら興行的にも大成功し、確かにそこにある熱と魂で人の心を揺さぶり考えさせるこの作品は紛れもない傑作だと思う。
