しの

パトリオット・デイのしののレビュー・感想・評価

パトリオット・デイ(2016年製作の映画)
3.7
「愛は勝つ」という青臭いメッセージを、映画的脚色によって違和感なく実話にのせることに成功している。ボストン市民の結束と連携の力強さが伝わってくる。不満点は、イデオロギー臭さを排しきれていないことと、良くも悪くもラストの15分が全て持ってくところ。

警察にも市民にも大切な人がいて、その誰かへの想いが彼らを支える。だからこそ彼らは協力し合い、「強くあれ」と言って立ち上がれる。そういうパーソナルな愛が集まって「パトリオット」を形成していく過程が非常に実感のわくもので、国や文化を超えた普遍的な営みで、この映画の一番の意義だと感じた。

ここが素晴らしかっただけに、不満も大きい。やけに犯人側の生活をリアルに描写したり、「9.11陰謀説」や宗教思想を語らせたりするので、どうしても「愛vs憎悪」の単純な闘いには見えなかった。今度はこの事件に対する「陰謀説」だって出てくるだろう。ちょっとバランスが中途半端だ。

そして来たるラスト15分。ここは、できればマラソンのシーンだけでよかった。あれこそ本作のテーマが見事に簡潔に表されているベストシーンだ。自分もあのシーンで最も胸を打たれた。

あのラスト15分の内容自体は素晴らしいのだが、あそこまで徹底的にやってしまうとこの作品が「映画」の力を借りて打ち出そうとした何かよりも、どうしても事件そのものや、事件の被害者そのものに心が向いてしまう。というかほぼ完全に掻き消されてしまう。ここもバランスを欠いてる点だと思った。

確かに内容自体は素晴らしいし、これが実話というのだから驚きだ。ただ、果たしてこれは「映画」なのだろうか。わざわざ俳優を起用して映画にする意味はなんだろう。ただ単にあの日の記憶をいつまでも薄れさせないためだろうか。
いや、これは単なるドキュメンタリーではない。そこには「愛は勝つ」という映画ならではのメッセージがあったはずだ。そこをもっとストレートに伝えてくれれば…。

『ハクソー・リッジ』と比較しても、同じ「実話」でもどう脚色するかによって印象が全く異なってくることがよくわかる一作だった。
しの

しの