しの

ダム・マネー ウォール街を狙え!のしののレビュー・感想・評価

3.3
株の売買というオンライン上での群像劇のなかに、コロナ禍の閉塞的な空気がちゃんと刻印されていて、時代を映すエンタメ作品になっていた。物語としても、強者に一杯食わせる系の超王道なので、経済に疎い人でも問題なく楽しめる。ただ、本作自体がまさにマネーゲームのごとく実態のない内容に見えるのは皮肉だ。

この作品、スピリットとしては「目の前の利己的な合理性ではなく、信念に従った選択を貫くことで、ゲームのルールは変わりうる」という、一見スカッとする決着をみせる。ただ一方で、そもそもそのゲーム自体なんなのか? なにに我々は踊らされているのか? というところには踏み込まない。ポール・ダノ演じるインフルエンサーを、現実の彼より明らかに純朴に描いていることが、本作の姿勢をよく示している。あくまで2021年1月の事件はモチーフであって、端から意図したものではない不確実な信念の連帯が何かを成し得た例として活用しているに過ぎない。

確かに、時代性の体感があってそこは楽しい。ただ、たとえばこの主人公はなぜ「ゲームストップ社の株が大好き」なのか? という核は空洞だし、ひいては「株って本来こういうことだったんじゃないの?」みたいな、ゲームそのものへの疑念は描かれない。しかしながら、前述のようにスピリットとしては勧善懲悪に近い後味がある。このチグハグさというか、うまく誤魔化されている感がややノりきれない点。個人的には、コロナ禍の連帯の熱は描きつつ、一方でポール・ダノもグレーな存在として描くことで、その危うさも強調したほうが面白かったのではと思う。あれから3年経って、まさに「連帯」により色々危うくなっている2024年の今、特にそう思う。

あと、単純にこの監督にしては映像と編集のグルーブ感が薄かったというのはある。個人的に『アイ、トーニャ〜』はこれまで観てきた映画のなかでも指折りの一本だし、『クルエラ』も序盤から映像的な語り口がキレキレだったのだが、本作は「走る」アクション以外そこまで印象的なものがなく、ネットミーム的なGIF画像をコラージュのように画面に貼り付けることを繰り返すのも凡庸に思う。全体的にそこそこの満足感だった。
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