しの

関心領域のしののレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.1
このアイデアは確かに凄い。ただ、アイデア一点突破という感じはする。明らかに壁の向こうで悲惨なことが起こっているのに、それが単なる環境音となっている家庭の様子を延々と映すのだが、長編映画としては厳しい。手前と奥を強調するショットの反復も一辺倒に感じる。エンドロールが一番怖かった。

正直、音響効果はそこまで印象的ではない。めちゃくちゃノイジーでもなく、シーンによってはヘタしたら赤ん坊の泣き声の方が目立つくらいのバランスで、これは意図的なのだと思う。気を抜いたら自分もこの家族と同様にそれを「環境音」扱いしてしまう、という体験は確かにあった。ただそうは言っても、壁の向こうの音を意識し続けてしまうバランスにはなっていたので、たとえば観ていて一家の日常に関心が行ってしまう出来事があるとか、そこで「環境音」に慣れてる自分に怖くなるとか、そういう瞬間があると良かった。途中で不意に不穏なカットを入れる演出がやや上滑り感。

映像についても、日常の光景の中で観客自身が自身に対してゾッとする瞬間が欲しい。たとえば「煙突と煙が何気なく映ってて怖い」みたいなショットは良かった。ただ、壁と庭を横移動のドリーで映すショットは何回もやりすぎで、作為的にしたいのか光景として映したいのかよく分からず。他にも、靴を洗うショットなんかはしれっと強調する感じで挿入してくるわけで。そういうドキッとする瞬間を不意打ち的に演出するか、あるいはひたすら家庭の日常を光景として映すのに徹するか、どちらかに振り切ってほしい。

総じて、終盤の入れ子構造からのエンドロールのアレが一番印象的だったかもしれない。あの飛躍する編集は、それまでに家の内部構造と奥行きを強調していたのがかなり効いていると思う。暗闇でドアが開いた瞬間はドキッとしたし、その後まさに「部屋の内部構造」が映るわけだから。つまり観客がこの映画を眺める視線が、一瞬でこちら側に向けられる。あの気まずさは白眉だ。いずれにせよ、A24はよくこんな企画を成立させたなと思う。
しの

しの