幽斎

悪の法則の幽斎のレビュー・感想・評価

悪の法則(2013年製作の映画)
5.0
アメリカを代表する小説家、Cormac McCarthyの書き下ろし脚本。氏の代表作「すべての美しい馬」、オスカーでスリラーでは異例の作品賞を含む4部門を受賞「ノー・カントリー」、ピューリツァー受賞「ザ・ロード」。何れも傑作であるが、万人にウケる話ではない。もし、この作品をCoen兄弟が撮ってたら全くの別物に仕上がったと思う。Ridley Scott版とも言える本作は極めて美しい映像美で、人間の残酷性を鮮やかに描く。

この作品では重要な警告が何度も出てくる。最初は「ダイヤモンド」。宝石商からダイヤと愛する人の命の価値を問う。主人公Michael Fassbenderは勿論見ている私達も、何気ない会話過ぎて、これから訪れる悲劇を想像すら出来ない。ポイントは、人に無理強いされた訳でなく自ら行動を起こした点。

2回目は「ボリート」、Javier Bardemから、「裏ビジネスは、ある日突然ヤバイ決断をする時が来る」と警告を受ける。しかし彼は凶器の物珍しさに興味を示すものの、置かれた立場を分ろうとしない。

3回目は「プロポーズ」、Penelope Cruzにレストランでプロポーズする。ここで断られるかと思ったと正直に告白してる。彼女を失う恐怖を理解しながら、裏ビジネスが悪魔の入口なのに目を背けようとしてる。

4回目は「麻薬カルテル」、Brad Pittに会い、ハッキリと警告される。しかし、法に守られてる世界しか知らない主人公は、世間の荒波なんてどうにでも成ると、傲慢さが顕著に表れる。自分が特別だと思っている人ほど、実際は常識知らずなのだ。

5回目は「グリーン・ホーネット」、ルースに、息子の釈放を頼まれる。主人公は依頼主である彼女に対しても慇懃無礼な態度を見せ、弱い立場の人を助けようとする姿勢が感じられない。そしてある人の電話で初めて自分の置かれた立場を本当に理解する。主人公の現実は脆くも崩壊し取り返しの付かない事態に陥る。選択は既に行われていたのだ。彼が辿る結末を是非見届けて欲しい。

秀逸なのはホラーじゃないのに怖い点。メキシコ人の台詞に字幕を付けない事で、彼らをエイリアンの様に描いてる(米国上映時)。同じ様に世間の常識が通用しない異世界を私達は良く知ってる、ヤクザです。アウトレイジも法則が「無」だと思います。別次元の世界を見せる事で、真っ当に生きる意味を問うてる。

本作はミステリーでも無ければ、結末も提示されない。正解が欲しい方には「時間の無駄」と言われると思います。でも、この作品で分る様に人生に正解って有るのでしょうか?。哲学的な台詞の数々で何か感じるのも、映画だと思います。

このジャンルで類を見ない豪華キャストで綴られる、不条理の本当の意味を教えてくれるスリラーの最高傑作。人生を食物連鎖に例え、人間の本性の「極北」を描いた極めて優れた作品なのです。
幽斎

幽斎