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夢と狂気の王国の教授のレビュー・感想・評価

夢と狂気の王国(2013年製作の映画)
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劇場では「千と千尋の神隠し」「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」が興収でトップ3に入っている。おまけに「ゲド戦記」が10位にいたりと、個人的には異常な事態だと思っている。
あまりにも繰り返し繰り返しテレビで放映され、レンタルDVDでいつでも観られる上に、作品に触れる機会が他の映画作品と比べて桁外れに多いにも関わらず「まだ観たいのか?」とすら思う。

加えていつも思うのだが、そうやって繰り返し繰り返し「ジブリばかり」観ている割には、作中に語られているテーマについて、日常的に会話に上ることが「ほぼ」ない。本質的にはそこまで「飲み込みやすい」物語を語っているわけではないのに、何故ここまで「ジブリ」なのか?

というわけで本作。「風立ちぬ」制作の舞台裏を覗く、という基本構成の中で、宮崎駿を中心に、鈴木敏夫、(ほぼ画面に映り込まないながらも異様な存在感を発揮する)高畑勲の三つ巴、加えてジブリのスタッフたちとの関わりから見えてくる「夢と狂気」の「王国」であるスタジオジブリの生々しい現場を捉えている。

というのも。その生々しさとは、現場での女房役「三吉(通称:さんきち)」さんの存在が大きい。本作のいわば「主演女優」である。
ほんわかした印象だが、核心に踏み込んだ質問を投げてきて駿を喜ばせる。
ボヤキを聞き、思うことを説明し、ニコニコしながら聞いてくれる。孤独なコンテ描き、作画、演出という作業に対して、なんとかモチベーションを維持するために「接待」し、そこに甘んじながら、明らかな「異性として」見ている、言い換えれば「恋」をしている駿の生々しさに、とにかく打ちのめされる。

「いくつになっても」という点も然り。創作の現場につきまとう「恋とクリエイティヴィティ」の関係。鈴木敏夫と庵野秀明が諭す「宮さんは、他人のエネルギーを吸い上げるのが上手い」「昔からそうだよね」というやり取りがなかなかエグい。

砂田監督はやや意地悪く、ジブリの「夢と狂気」だけでなく、それが誰にとっての「王国」なのかも炙り出してくる。
創作の尽きぬ「夢」の部分と、それにつきまとう「狂気」という歪な部分。

声優に庵野秀明を起用する、というアイデアにノリノリになる駿を見ていると、創作の現場に降って下りてくる「何か」が映っているようでたまらなく嬉しくなったりもする。秀作。


後期:僕がやっているポッドキャスト番組で色々お話しているのでご興味あればどうぞ(宣伝です!)

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