旅先で殺人を繰り返すカップルの姿を描いたブラック・コメディー。
口煩い母親と未だ同居の30代のティナは、クリスと付き合い始めたばかり。編み物が趣味の地味な人生を振り捨て、作家志望のクリスの取材を兼ねた景勝地の湖水地方を巡るキャンピング・カーのアウトドア・ライフに同行する。美しい田園風景や観光地ならではのうらぶれた博物館巡りなど、英国観光を味わい尽くすカップル旅行のはずだったが、いつしかティナは考えもしなかったクリスの奥深いダークサイドに触れ、自身をも解放しはじめる…。
旅の初っ端、駐車中のキャンピングカーを勢いよくバックし、男を轢き殺しても一切の罪悪感を持たないサイコパス心理の怖ろしさ。殺人シーンも恐ろしく『ミッドサマー』のような頭部や顔面が元の状態を留めていない死体の造形もグロテスクである。クリスもヤバいが、ティナも相当ヤバい。シリアスに描けば完全ホラーとして成立するが、そこをシュールな笑いを散りばめてロードムービータッチでテンポ良く描いている。尚、制作総指揮エドガー・ライト。音楽とシンクロした演出を得意とするエドガーの影響を感じさせ、オープニングから音楽のチョイスが秀逸。また、制作ニラ・パーク、監督は『キル・リスト』で絶賛を受けたベン・ウィートリー、脚本&主演のアリス・ロウとスティーヴ・オーラムという最強チーム、主演二人のブラックな演技、オチも最高だ。
この手のジャンル映画ながらも、カンヌ国際映画祭監督週間での鳴り止まぬスタンディングオベーションと、好演のテリア犬“バンジョー”がパルムドック賞を授与され、英国や各国でも映画賞を続々とさらったという。