こたつむり

LIFE!のこたつむりのレビュー・感想・評価

LIFE!(2013年製作の映画)
4.2
青空にただよう一片の雲のような作品。ふわふわ。

欧米のレストランで。
料理を出すときに「Enjoy(楽しんで)」とか言いますけども。あれ、結構好きなのです。「この料理は美味しいよ」という自信と共に「快適な時間を過ごしてね」という心遣いも感じるのです。そして、本作も…そんな思いがパンパンに詰まっている作品でしたよ。

物語としては。
堅実で真面目な主人公が一歩を踏み出す…というもの。まあ、よく見かける題材と言えば、そうかもしれません。でも、本作が素晴らしいのは“彼自身”を否定しないこと。そして“対立する存在(彼をリストラしようとする担当者)”も否定しないのです。

だから、主人公の妄想癖すら否定しません。
妄想に浸ると他人の言葉が耳に入らなくなるのですが、それだって“人生”というスパンで捉えれば、大きなことではないのでしょう。だから、どこからが妄想で、どこまでが現実で…なんて小さなことなのです。作品すべてが妄想だとしても…アリなのです。

また、そんな全てを肯定した作品を。
ベン・ステイラーが主演と共に監督を務めた、という事実が素敵です。何しろ『メリーに首ったけ』で究極的に野暮ったい男を演じた彼ですからね。そんな彼の人生の総決算…とか考えてしまうのは、さすがに妄想が過ぎますでしょうか。でも、妄想だって構わない、そう思えるほどの存在感だったのです。

ただ、全方位に向けた作品とは言え。
涙腺が刺激されるほどに揺さぶられる…とまではいかないかも。主人公と同じようにクリックひとつで頭を抱え、断腸の思いで決断したら…エラー!なんて場面が日常茶飯事の人ならば泣くかもしれませんけどね。あ。僕のことだ。

まあ、そんなわけで。
堅実に生きること。地道に何かを紡ぐこと。
そして、時には大きな一歩を踏み出すこと。
それら全てを肯定している極上の人間賛歌。心の片隅に本作の情景を置いておいて、何かに迷ったときは思い出す…そんな人生が一番楽しそうな気がします。

それにしても。
英語圏で暮らしていれば、もっと楽しめたのでしょうね。背景の色々なところに文字が仕込まれているのですが…それを字幕で知るのは残念な限り。観客がさりげないところで気付く…そして、それは人によって違う…そんな奥ゆかしさが本作の持ち味なんですよ。

まあ、何はともあれ、Enjoy!
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