改名した三島こねこ

her/世界でひとつの彼女の改名した三島こねこのレビュー・感想・評価

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
3.7
Letter from your life

間違いなく恋愛映画なのだが、哲学的なメッセージも読み取らずにはいられない秀作。AIの知能が人間の領域に到達した時、人間とAIの違いはどこにあるのかという問題は、私達の眼前に立ちはだかりつつある。

本作でのサマンサの取り上げ方はなんとも蠱惑的で、ASMRのようにイヤホン越しに私達の情欲をかき回してくる。彼女の息遣いはセオドアから言わせたならわざとらしいが、私達にはありもしないサマンサの人間的な顔を想像させるにあまりまる。
物語のなかばには人工知能という本質を私達は忘れ去り、一個の普通の恋愛物語にしか思わなくなるのだ。

この前提があるだけに人間の生物的な制約は、サマンサの異常性という評価で最後の最後に現出する。実際にはサマンサの行動は自然極まりなく、むしろ人間の恋愛観の方がよほど非合理で、社会的に許容されただけの狂気であるというのに。

しかしその狂気すらも許容して、セオドアを愛するという本質に至ったのだから、サマンサの精神性こそが究極的な愛ではなかろうか。どこか神話的存在を思わせる彼女の愛の在り方は、機械的知性に対する浪漫すら覚える。