めしいらず

もらとりあむタマ子のめしいらずのレビュー・感想・評価

もらとりあむタマ子(2013年製作の映画)
3.6
ぐうたら娘の変わり映えしない春夏秋冬。本当に何にも起きない。ストーリーを追わない分だけ一つひとつの描写が濃やかになり、人への眼差しに説得力が付加されていくよう。一つひとつじわじわ効いてくるその可笑しさ。せっかく大学を出たばかりなのに、ただ無為に過ごしているだけの毎日。本人には焦りや劣等感もあるけれど、実家暮らしの安楽さに無気力の殻からなかなか抜け出せない。取り敢えずはモラトリアム(猶予期間)を置いていると言ったところか。父親との関係も態度や言い草に反して良好そう。下着の洗濯や自室の掃除を任せるくらいには。でも何かしなくては。何をすればいいのだろう。引っかかった箇所で足踏みする自動人形のよう。自虐的なアイドル”風”写真のくだりに、父親同様にぐふふと笑わされる。怠惰に生きていても腹は減る。飯を食えばまた満ち足りる。安楽さの中から自分の意志で這い出るのは如何にも億劫だ。まあ子どもじみた甘えではあるだろう。でもそんな主人公の外堀を埋めるが如く父親の身辺に俄かに不穏な動きが察知され彼女を慌てさせる。そこから始まるネガティブキャンペーンの可笑しさ。だがいつまでもこのままじゃいられない。著しく自己肯定感が低い主人公は、まず身の回りの小さなことから積み上げていくほかない。チャンプルーに入ったゴーヤも小さい欠片からでもまずは食べてみなくては。形はどうあれ洗濯物くらい干さなくては(父のパンツの扱い方よ)。父の通告がきっかけではあったとは言え、それに(かろうじて)諾と応えた彼女は、とりあえず1歩目は踏み出せたようだ。
何度も観たくなるような可愛い映画だった。コメディと呼ぶほど笑わされる訳じゃないけれど、ニヤニヤしてしまうような諧謔を含んだ空気が終始あってじわじわ可笑しい。80分弱にしては心情の濃度が高いドラマだったと思う。自堕落な主人公前田敦子が見事なまでにぴったりハマっていた。平田満と尾藤イサオを足して2で割ったような父康すおんの風情も、彼女に顎で使われる手下の中学生の唯々諾々感もまた良い味わい。
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