小波norisuke

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌の小波norisukeのレビュー・感想・評価

4.1
主人公がかなり個性的な人たちと関わりながら、全然ツイていない日々を過ごす様を綴っているところが、「コーヒーを巡る冒険」を連想させる。しかし、「コーヒーを巡る冒険」の主人公は、「考え中」のモラトリアム真っ只中であった(まるで自分を観ているようで痛かった)のに対し、この映画の主人公であるルーウィンは、ちゃんと自分のやりたいことがわかっていて、なんとか歌で生計を立てようとあがいている。なんとかレコードデビューにこぎつけても、歌で暮らしを立てていける人は、一握り。多くは名もないままに違う道を歩むことになる。そんな名もない歌手たちが、ボブ・ディランに影響を与えたというのが、なんだか嬉しい。

しかし、ルーウィンの歌。吹き替えなしの歌声は確かに魅力的だけれど、歌詞がどうにも私には珍妙に思えてしまった。格別に首をかしげてしまったのが、シカゴのプロデューサーに聴かせた歌。もともとある詩に曲をつけたものらしいが、とくに日本人だからぴんとこないのかもしれないが、あの曲を客として聴いたら、どうリアクションしてよいのか戸惑う。しかし、さすがプロデューサー、端的な言葉で評した。心から共感。

音楽に疎いので、ボブ・ディランといってもあまりイメージがわかないのだが、たまたま今の私が思い浮かべるのは、♪I Shall Be Released♪。「チョコレートドーナツ」のラストで主人公が力強く歌った歌がボブ・ディランの曲だと知った。あの心に刺さる歌を作った人が憧れた名もなき男の物語。なんだか楽しい。

汚い言葉を連発するキャリー・マリガンがかわいい。歌は吹き替えかと思ったら、ちゃんと歌っている。そしてなんといっても猫。ルーウィンにのしかかる時の表情に味がある。1961年のニューヨークと猫とアコースティックギターの組み合わせが良い。
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