くりふ

あなたを抱きしめる日までのくりふのレビュー・感想・評価

あなたを抱きしめる日まで(2013年製作の映画)
4.0
【神のネグレクト】

過去にみた数本のフリーアーズ作品に比べ、静かな躍動感に溢れてよかったです。が、カトリックの鬼畜行為に対しては甘いまとめでした。

映画としては、実話が元ですが、人が物語を求める切実さを描いていて興味深かった。フィロミーナがロマンス小説に夢中になるのは、欠けた息子の物語を埋める代償行為だと思ったのですね。

少し観客を巻き込むメタ的構造を持っていて、例えば途中、フィロミーナは未見の筈の、息子が写る8mmフィルムがインサートされます。この時点では想像の産物なのに、まるであったことのように描かれる。

また彼女は、息子がああなっていたらこうなっていたら…とその姿をリアルに想像し苦悩もします。この過程、息子を探す旅は、息子の物語(=欠けていた自分の物語)をつくり上げることになっていくんですね。

だから本作の映画的救済はどんな結末であれ、フィロミーナがこの物語を完成させるということで、ここにずしりと共感しました。

修道院の行った「罪」について、フィロミーナが最後に出す結論は、一人の人間が人間に対する態度としては立派だとは思う。が、信仰者としてはダメダメでしょう。あれは悪魔に餌をやり続ける行為に等しく、カトリックの何が悪かという原因が隠れてしまう。

だから本作は一方で、「カトリックはクソだ」(笑)と言い切るマーティンの理性的な視点も用意しているわけですが、二方向の問題提起で終わっているのがやっぱり弱い。

カトリック側の反応も予期した上で、大人のまとめをしたのでしょうが、原作では、真実を知ったフィロミーナが修道院の対応に怒りをぶつける様などもきちんと書かれていたことは補足しておきたいです。

一箇所、悪の組織っぷりをさりげなく仕込んでいるのは可笑しかったですが。物語の盛り上がりで見逃しそうになりましたが、一見親切な窓口シスターが最後に取った行動。

…あんたそれ、始めから知ってたんだろ!と爆笑してしまった。悪いって自覚がないのでしょうね。婚前交渉する娘は極悪罪人だと刷り込まれているし。

ちなみに後で原作読んで知りましたが、フィロミーナが50年間も息子のことを隠したのは、話すと聞いた人間も地獄の業火に焼かれる、と刷り込まれていたからだそうです。…中世かよ!(呆笑)

デンチさんは、静謐な爽やかさをまとって、とてもよかった。現実となった8mmフィルムを見つめる顔、そのアップでの表情はずっと心に残っています。また、彼女の娘役アンナ・マックスウェル・マーティンにすごく実在感がありました。美人じゃないのがいい(笑)。

あ、ジェーン・ラッセルをマンスフィールドと間違える話が可笑しかったですが、これちゃんと、当時のアイルランド政権を悩ますジェーン・ラッセル問題があったと原作読んで知りました。

但し映画では、彼女が孤児を買ったという噂だけがクローズアップされていて気になりました。

彼女は10代で妊娠中絶を経験し子供ができない体となり、女優としての成功後は孤児を助ける活動を色々していたそうなので、もうちょっと踏み込んでもよかったのに…と思います。

<2014.4.28記>
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