すず

とらわれて夏のすずのレビュー・感想・評価

とらわれて夏(2013年製作の映画)
4.8
普通の生活に憧れた、訳あり男女の秘密の恋。

切なくて苦しくて悲しくて、だけど優しくて温かくて愛おしい。

人生に絶望し、人目を避けて生活する主婦アデルを演じたケイト・ウィンスレット。
さすがの演技力、とにかく凄い。
彼女の前に突如現れる訳あり男にジョシュ・ブローリン。
何をしでかすか分からない危なげな男。
それもそのはず、彼は脱獄犯。
半ば強引に車に乗り込んできた彼を、夜になるまでならと匿う事になった親子。
この出来事がそれぞれの人生を大きく変える。

夫と別れて心のバランスを崩してしまった母を懸命に支える一人息子のヘンリー。
夫の役割を担う彼の姿に、彼の理想の父親像が見えてきて胸が苦しくなる。
健気に母を支える彼もまた、父親の温もりを求めていたんだね。
そんな2人の前に現れた脱獄犯のフランク。
アデルは息子に危害が及ぶのを恐れていたけど、彼の何気ない行動や言葉が彼女の心の隙間を埋めていく。
奇妙な共同生活なんだけど、そこにはそれぞれが求めていたものがあって。
3人でパイを作るシーンは何だかものすごく泣ける。
父親の温もりをフランクに求め始めたヘンリー。
これ以上深入りしてはいけないと分かっているのに、アデルも彼に愛を求めている事に気付いてしまう。
少しずつ明かされていく2人の秘密や心の傷。
2人がどうしようもない絶望の中で苦しみながら生きてきた事を知る。
この関係がバレてしまう時が来てしまうのだろうか、出来ればこのまま夢を見ていたい。
そう願わずにいられない。
幸せそうに見えるけど、本当は余裕なんてない3人の姿は見ていて苦しい。

結末は思っていた通り、望んでいなかった結果。
2人にしか分からない方法で愛を伝え、去って行くフランク。
切なすぎる、辛すぎる。
3人には幸せになって欲しかった。
フランクが去ってから長い月日が経っても、彼だけを思い続けるアデル。
彼女の強い想いが幸せをもたらすのは、だいぶ先の話。

何となく、マディソン郡の橋とパーフェクトワールドを思わせる作品。
たった5日感の出来事が、3人の人生を大きく変えた。
大きくなったヘンリーは野球少年になった。
初めてのガールフレンドとのドライブの前にはタイヤも交換した。
全てフランクが教えてくれた事。
成長したヘンリーの姿に胸がいっぱいになった。
すず

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