小波norisuke

パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間の小波norisukeのレビュー・感想・評価

4.0
ケネディ大統領暗殺事件をめぐる人間ドラマ。題名のパークランドは、JFKと犯人が運び込まれ、帰らぬ人となった病院の名前だ。

突然、血まみれで運ばれてきたJFKを前に、身震いする若き医師。その医師に、毅然とした態度で処置を促す、女性の看護師長が頼もしい。この看護師長は、緊迫する処置の合間を縫って、ロッカーから十字架を取り出した。回復が絶望であると医師らが悟り、処置が停止すると、神父が呼ばれ、祈りが捧げられる。JFKが安置された柩の上に、静かに十字架が置かれた。

同じ病院に、今度は暗殺犯が運ばれてくる。JFKとは、敢えて違う処置室に。もう一つの柩が登場する。

この二つの柩の対比が、実に印象的だ。JFKの柩は、州政府との管轄争いの末、ワシントンへと移すために、屈強な男たちによって専用機に運び込まれる。機内の壁をギコギコとナイフで壊してまで。

一方、暗殺者の柩は担ぐ人もいない。暗殺者の兄に請われて、取材に訪れた記者がやむなく手伝う。弟をこのような形で葬らねばならない兄の心情を思わされ、とても辛い。この兄は、弟の歴史に残る罪を引き受けた上で、家族を守って生きていかねばならない。

そして、「ザプルーダー・フィルム」に関するエピソードも心に残る。JFKの熱心な信奉者であったがために、意図せずして一人の縫製業者が撮影してしまった、まさにJFKが銃撃される場面を写した8mmフィルム。このフィルムをめぐる取引の条件として、ザプルーダーが主張した言葉にはっとする。「一人の人間の尊厳を守るためなんだ」。

一人の人間の尊厳。今、私の暮らす国で、加速度的に軽視されているように感じられるものを、大統領であった人物のために、必死で守ろうとした男が、ワシントンから遠いダラスにいたことを覚えていたい。

冒頭から最後まで、JFKが非常に愛された大統領であったことを改めて思わされる。もし、自国の首相に同じことが起ったらどうだろう、とつい想像してしまう。

語り尽くされたと言われるJFKの暗殺事件であるが、私にとっては新鮮で、見逃さずによかったと思える作品だ。
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