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パラダイス 神のesのレビュー・感想・評価

パラダイス 神(2012年製作の映画)
3.9
前作に引き続き無償の愛を求める女性の話。ウルリヒ・ザイドル監督は家族という存在は本来「無償の愛」を与えてくれる存在と考えているのか、パラダイス3部作の3人は全員家庭内に空虚感の原因があるという設定。

DV被害者や心に傷を負った人が救いを求めて宗教に傾倒するという話は現実的に多い。信仰心というのは心が満たされている人間よりも満たされていない人間に与えられた自身を支える為の杖のようなものだと思える。
今作では家庭内に過激とも言える敬虔なカトリックと自分に都合が良い部分だけ信じているイスラム教徒が同居している。宗教は違えど同じ神を信仰しているし、宗教を都合よく解釈しているという意味ではそっくりな夫婦とも言える。そこにあるのは「信仰」ではなく「慣習」であり、形式に拘り芯を失った空虚なものとなっている。そういう意味では、この作品は『切腹(1962)』とよく似ているかもしれない。

家の中に溢れるキリスト教グッズ。日本ではオタクが好きなアイドルやキャラクター、作品などを他の人にお勧めする時に「布教」などと言ったりするが、主人公アンナ・マリアの信仰はアイドルに対するキャラクター的偶像崇拝のよう。現実の人間と違い嫌な面を見なくて済む存在に愛を注ぐ。見返りを求めない行為の筈が、信仰に対する救い(見返り)を求めているので何かが食い違うと裏切られたと感じる。

エンドロールで流れるバッハのカンタータ26番"Ach wie flüchtig, ach wie nichtig"は、地上の事物が如何に儚く、如何に虚しいかを綴ったもの。この作品のラストにこれ程相応しい曲はないと思う。

原題は"Glaube"なので「信仰」。邦題は「神」となっていて印象的ではあるけれど意味合いがかなり違う。しかし作品が偶像崇拝するカトリックを映し出しているのと同様に文字として神の存在を偶像化しているのだと思えば奥深い邦題かもしれない。
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