NM

トム・アット・ザ・ファームのNMのレビュー・感想・評価

3.4
雰囲気が良い。サスペンスだがびくっとするような怖さではなく、得体の知れない不気味さという感じ。誰かが嘘をついていて、誰を信じていいか分からなくて、自分の気持ちすらあやふや。現実にこんな状況があってもおかしくない。
謎が多いので考察をしている人は多そう。
ケベックとい場所柄も重要らしい。

主人公トムは、友人ギヨームの葬儀に出るため長距離を運転しこの田舎町までやってきた。広大だが寒々しい農家。

その友人宅に身を寄せるが、その兄フランシスの態度が異常。母をがっかりさせない立派な弔辞を読めよと脅し、トムをここにとどまらせるつもりらしい。
母も思い詰めているし、感情を必死に抑え込んでいる様子。
何か不幸な死に方をしたらしいが、それについての詳細はずっと伏せられている。

そしていざ葬儀当日となると、トムは弔辞を読むことができなかった。
とにかく葬儀が済んだのでそのまま帰ることもできたが、なぜかトムはそのまま友人宅へとどまる。
ここまでくれば感じるが、この美男子トムと故ギヨームはただの友人だったとは考えづらい。

とにかく兄は母を傷つけないよう守りたいと言う。
トムは脅されるので仕方なく、母に慰めになるようなでまかせを言う。
故ギヨームにはサラという恋人がいたが葬儀に来ないことで母は苛立っている様子。だがこれはもともと兄の嘘のようで彼女はただの同僚。その嘘にトムも付き合うはめになる。

葬儀ではあまりこの親子に話しかける人がいなかったし、特に兄フランシスの友人や恋人などは一切出てこない。
母はまるで息子に接するかのようにトムに優しくなり、兄には厳しく接している。母は恐らくずっと故ギヨームにも甘く接し、兄には弟のために我慢することを強いてきたのだろう。

トムが嘘を重ね母の慰めになるようなことを言うと、兄フランシスの態度は緩和し面倒を見たりするものの、気に入らないことがあるとやはりすぐ暴力。
兄フランシスを見ていると本当の意味で母を思っているのかはあやしい。母のために自分が犠牲になっているという認識もあるようだ。そのこともありトムを巻き添えにしたいのだろうか。守りたいにしても話してお願いすれば良いのにいきなり暴力というのはそもそも正常とは思えない。
トムと兄フランシスが倉庫でふざけてタンゴを踊るシーンがある。何も語られないがここでトムになにかの感情がふいに芽生えたようにも思える。そして弟の秘密を隠そうと躍起のフランシス自身にも実はずっと抑えている感情があるようだ。

トムは、ギヨームの恋人を装ってもらう約束でサラを呼び寄せる。もう帰るための車がないことも、凶暴な兄フランシスのことは何も知らせずに。早速フランシスはサラも脅す。
ここで話は妙な展開に。
フランシスに対する不思議な感情があるのか、彼の前だから彼を味方するようなことを言っただけなのか。
帰れなくなったトムはストックホルムシンドロームか何かでいつの間にかこの親子の味方をするようになったのだろうか。それとも帰るために彼女を利用しただけだろうか。

トムはこの村にこの家に住むようになってしまうのだろうか、それとも逃げ出すことができるのか。
NM

NM