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MUD -マッド-のnetfilmsのレビュー・感想・評価

MUD -マッド-(2012年製作の映画)
3.8
 アメリカ南部アーカンソーの川沿いの町、この地でハウスボートに暮らす14歳のエリス(タイ・シェリダン)は朝方、親友のネックボーン(ジェイコブズ・ロフランド)の呼び出しで家を飛び出す。沼地のような川べりから濁りを帯びた川へ、ミシシッピ川に浮かぶ島にたどり着く。15分タイマーをかけ、鬱蒼と茂った林の中へ分け入ると、視線の先に木の上にくくられたボートが見える。胸を躍らせながら木に上りボートの中に入る2人だったが、そこにはパンや真新しい足跡が残され、誰かがこのボートで暮らしていることに気付く。15分経って川岸に戻ると。そこには汚らしい格好をしたマッドという男(マシュー・マコノヒー)が待ち構えていた。野生的な顔立ちにロン毛、白のTシャツは汚れ、ジーンズの後ろには拳銃が剥き出しになっていた。身を隠している彼は食べ物と引き換えに、彼の隠れ家にしている木の上のボートを渡すことを二人に提案する。 ネックボーンはマッドを怪しみためらうが、エリスは彼の魅力に押され、食べ物を渡し、二人の間にほのかな友情が芽生える。やがて街中の検問により、エリスはマッドが指名手配犯であることに気付くが、幼なじみの最愛の女性ジュニパー(リース・ウィザースプーン)と再会しようとするマッドに尽力する。

 ミシシッピ川のほとりに隠れる心優しき殺人鬼と、2人の男の子の交流は真っ先に小説である『トム・ソーヤーの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』を彷彿とさせる。ぼんやりと時代に取り残されたようなアメリカの原風景の中に佇むマッド、エリスの家の向かいに住む寡黙な老人トム・ブランケンシップ(サム・シェパード)との対比を描きながら、たった数kmの距離を離れた田舎町のモーテルにジュニパーはやって来る。彼女が醸し出す退廃的な空気、気怠そうに吸う煙草、それは14歳のエリスが初めて恋をした年上の彼女メイ・パール(ボニー・スターディバント)と図式的に示される。マッドはジュニパーと2人、駆け落ちするがごとくミシシッピ川から更に南下しようと試みるのだが、被害者の兄カーヴァー(ポール・スパークス)や父親キング(ジョー・ドン・ベイカー)の追っ手がすぐそこまで迫る。エリスにとって一夏の出来事は、少年から青年へと成長するイニシエーションの主題を纏う。両親の離婚に伴うハウスボートからの撤退、年上のメイ・パールとの初めての恋、そしてマッドの身に起きた恋の行方、蛇の毒と血清。エリスは実父以上に、危険な雰囲気を醸し出すマッドをメンターのように仰ぎながら、彼の破れかぶれな逃走劇を支える。エリスにとって一夏の思い出は実にほろ苦く、一生胸に燻るような何かを残す。
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