乙郎さん

それでも夜は明けるの乙郎さんのレビュー・感想・評価

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
3.0
2014/4/12観賞@シネマQ
 スティーブ・マックイーン監督の映画を観るのは『SHAME』に続き2作目。『SHAME』ではまだ文体を掴みきれていなかったが、今回はその文体とテーマの結合性を楽しむことができた。長回しの多用により、作品自体の問題意識を観客に突きつける、一種S的な文体と言おうか。
 日本人にとっては、黒人奴隷制度の実態についてあまり馴染みがないわけで、その事もあってか最初は、2ヶ所ほど身体的な痛みを感じさせるシーンを除いて、強烈な束縛が出てくるわけではない。精神的な苦痛はともかく、映像として観る肉体的な苦痛については、日本人はそもそも『女工哀歌』的なイメージを持ちがちなので。ただ、そうやって油断していると後半足元を掠め取られる。 どうしても観客はこれを他人事として安心して観るわけにはいかなくなってくる。例えば、仕事において自分の倫理と違っている時の決断とか、そういった問題を突きつけてくるわけです。
 歴史上ではその後奴隷解放が達成されることを観客は知っているゆえに、なぜマイケル・ファスベンダーをはじめとする奴隷主があれほどまで奴隷に固執するのか、にわかには理解しがたい。それは単純に労働力が失われるというだけではなく、彼らにとっての尊厳を「同じ人間を人間として扱わないことで尊厳を奪うこと」そのものに委ねているからではないかと思った。そして、僕はその部分にシステムそのものを疑うことの難しさを見てとり、それは現在においても存在するのかもと疑う必要性を感じとった。
 演出としてはマックイーンを特徴づける長回しシーンの緊張感が凄まじく、特に後半、例の鞭打ちシーンでファスベンダーの奥さんの声が画面外から響くところなどやばかった。あとは、全体的に酷薄な状況ほど自然描写が情緒的になっているように感じた。
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