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家族の灯りのemilyのレビュー・感想・評価

家族の灯り(2012年製作の映画)
4.4

帳簿係として勤務しているジェボは妻と息子の嫁ソフィアと質素な暮らしをしている。8年前に息子は行方をくらまし、三人で息子ジョアンの帰りを待っている。そんな息子が突然帰って来て。。

波止場にたたずむ男のショットから幕を開ける。まるで絵画のような静止した美しさは幕開けから全編を漂っており、陰の中の光を巧みに操り、シンプルなストーリーに映像美が映える。窓ガラスを使っての冒頭の演出に非常に惹きこまれた。

カメラは固定カメラ中心であり、同じ窓ガラスを捉えている。そこに街灯が灯されオレンジの光が優しくあふれ、ソフィアはふと外にでる。窓ガラスには外のソフィアと室内で灯をともしてる義母が小さく映る。窓越しに見る2人の会話、窓越しに重なる2人の映像に確かに流れる質素ながらも家族が灯す明かりがあることを感じさせる。

原作は戯曲で、ほぼ薄暗い室内での会話劇が中心となり、固定カメラのシンプルな演出が見事に最大限に生かされている。演劇を見ているような隣り合わせに座り会話する人たち。

そこにカメラに向かって話しかけてるような1人劇も加わる。夫婦の会話を後ろから覗き見してるソフィア、ランプによる光の絶妙さと涙や何気ない表情から、2人の会話の深刻さをみせたり、話してる人ではなくただ黙ってそれを聞いてる人の表情や動きで心情を積み上げていく。

それは次第に三人の絶妙な位置関係を浮き彫りにし、そこに息子が加わることで翻される積み上げたものの儚さが、それでもなお続いていく日常とそこにある光に安堵を覚える。

単調な生活を淡々と映す。しかしそれがどれだけ幸せなことなのかは、そこに溺れてる間は気がつかず不満だけが募るものだ。父はどこまでも謙虚で壮大で、自分が犯した罪を償うため大きな決断を下すことになる。お金がなければ子供にしてやれることなんて少ない。しかし人の心を動かすのはやはり自分の変化した誠心誠意の行動しかない。見返りなんて求めてはいけない。彼の決断には確かに愛が灯り、それを義務と受け取る人間の器の大きさに胸が打たれる。

貧乏でも、例え間違っていたとしても、相手を思いやる気持ちは常に家族に暖かい灯をともすのだ。
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