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ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅のarchのレビュー・感想・評価

3.6
あからさまな詐欺広告な宝くじ当選を真に受けて80歳近くの父はリンカーンへと向かう。息子含めた家族は彼を止めるが、その宝くじに縋るような父を見守るしかなかった。

嘘の宝くじ当選を信じてしまう男で、ここまで感情乱される話を作り出せることに驚愕しながら見ていた。人の心理を丁寧に描くからこそ、ユーモアも一つ一つが人情に満ちていて、悪性もまた"人情"で、《人》が映っているなぁと思わされる。

最新作である『ホールドオーバーズ』にも共通する「対立」二人が、出来事を通して「共闘」する仲間になっていくストーリーの変遷が観客の心を掴む訳だが、その感情の流れに乗せるのがとことん上手い。同情と共感でとにかくこの父子の味方にしてしまうのだ。
言い方を変えれば目的の一致、或いは動機の一致じゃなくて損得や善悪じゃない《感情》によって推進されていく物語であるということ。だからこそこの映画で描かれる虚勢や嘘、憎めない、なぜならそこには確かに切実な《感情》が詰まってるからだ。

映画を構成するささやかで多幸感に満ちたユーモアの数々も素晴らしい。盗んだものを返しに行く下りも笑えるし、虚しく映し出される「宝くじ当選」の文字もクスッとしてしまう。
一台の車という"場"が家族や父子を微笑ましく描写していて、"運転手"の変化が場面に映し出される関係を画で伝えてくれる。あのラストは父子という関係性が孕む"義務"を越えて、関係性が結ばれたのだということを示されるかのようで本当に美しいものだった。
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