テオブロマ

シンデレラのテオブロマのレビュー・感想・評価

シンデレラ(2015年製作の映画)
2.0
私には全然ダメな映画だった。アニメ版の方が断然いい。シンデレラと王子にイライラしっぱなし。女性の権利とかない時代、シンママとして2人の娘のために手段を選ばず暗躍する継母の方がよっぽど共感できるし、魅力的なヴィランで応援したくなる。「私を脅してるのか?」「そうです」のシーン最高過ぎない?エラはいいから継母のスピンオフが観たい。ミュージカル要素バッサリなくしたのもほんとダメ。ブルーノ (犬)を消したのはエラを孤立させるため?アニメ版と違って、魔法にかかってる間以外は動物達に知性がほぼ感じられない。動物のお友達とのやりとりが、孤独に耐えかねたエラの妄想に見えるレベル。

実写版エラみたく余計な要素を付与しなくても、アニメ版シンデレラはちゃんと芯の強い女性だった。ただ継母と義理の姉に服従するだけの弱い女性なんかじゃないし、王子様の迎えを待つだけでもなかった。舞踏会に参加する権利は自分にもあるとちゃんと言うし、シンデレラに部屋の鍵を届ける途中のネズミ達を継母側の猫ルシファーが捕らえた時、ブルーノをけしかけるようネズミ達に指示して鍵を奪還したし、その後はちゃんと自分の足で応接室まで出て行ってガラスの靴を履いた。実写版は余計な付け足しと改変によってエラの性格が悪く見える。私はアニメ版シンデレラが好き。全ての衣装が美しいのと、フェアリー・ゴッドマザーをヘレナ・ボナム・カーターが演じてる点については文句なしに素晴らしい。点数はその分。でもピンクのドレスをブルーの蝶々ひらひらデザインにするのは「ちょっと手を加えた」レベルではないと思う。シルエット変わりまくってんじゃん。あとシンデレラの吹替版の声は別の人の方が良かったと思う。

エラやエラの両親、王子、王子の側近?などをこれでもかと理想的な存在として描くくせに、悪役はとことん卑怯で愚かで醜く貶めるような悪意ある描き方をするのが不快。継母側の事情も一応描いてはいるけど、結局彼女は悪役だったのでエラに捨て台詞を吐かれ去られるし、不幸なまま終わる。国からも出ていく。継母はセンスがよく、計算高く、自分の娘達が愚かで器量よしでないことなんか知ってる。なのに「うちの娘達は最高ね!王子様の心を射止めるのは間違いなしだわ!」とか手放しに言うわけない。自分だけあんなに見事に着飾って、人生最大のチャンスである舞踏会に臨む娘達にあんな趣味の悪いドレスを着せるわけない。聡明な悪役を愚かに見せるために突然頭悪くするみたいな、こういうやり方すごく嫌。聡明な悪役として説得力のある描写をして欲しい。そういう意味で、舞踏会での立ち聞きシーンや裏取引シーンはすごくよかった。朝食作ってもらった上に一緒に食べてもらうなんて申し訳ないと言ってエラを食卓から追い出すとか、こんなボロみっともなくて…って言いながらエラのドレスを破っていくみたいな陰湿なイビリとかもよかった。アニメ版の、シンデレラを褒めつつ娘達を焚きつけ、自分は手を汚さず娘達にドレスを台無しにさせる継母も大好きだけど。使い魔を使役する魔女感があって。

時代考証をした上であえて無視してます!って主張が強いので、黒人の地位が高いとか衣装が現代的過ぎるとかは全然アリだと思う。ただ流石に、実写の人間が「ネズミは人間の言葉を理解できる」「フェアリーゴッドマザーは実在する」「動物達だけが友達」「勇気と優しさが1番大事」「勇気と優しさ、愛さえあれば国は統治できる」を本気でやってるのはキツい。ラストのナレーションによれば「2人は公平で優しい、優れた君主になった」「こんな世界になったらいいなと思うように国を治めた」らしいけど実写でこれをやられるとハァ?ってなる。悪役描写のために人間の裏とか汚さとか生々しさをわざわざ追加してるくせにそこはファンタジーのままなんだもの。『マレフィセント』も嫌いだけどあれは妖精の国だからまだ目をつぶれる。でも『シンデレラ』は人間が統治する人間の国でしょ?大国に挟まれた小国なんでしょ…?

まずエラが好きになれない。この人のこと性格がいい、心が美しい、優しいって思えない。王子のことを服装から貴族とわからないのか(狩りをしてる時点でほぼ確実に貴族だから、わかってて無視してる?)最初から最後まで割と無礼な態度なのが…そういうものだからってしなきゃいけないわけじゃないでしょって、ならあなたも家事ボイコットすればいいのでは?エラは結構気が強いし自己主張もできるのに、継母達に反論もせずただいびられっぱなしなのは違和感がある。アニメ版シンデレラは舞踏会の招待状が届いたとき、義姉達を馬鹿にしたような態度を隠さず、真っ向から反論してたのに。継母達と仲良くしてっていう父との約束は別に服従しろって意味ではないでしょ…あと優しさはタダだと言うけど、「優しくしてあげたのに」と言って自分にもそのようにして欲しかったと望んでる時点で、それは無償の優しさではないのでは?

エラの父親もひどい。亡くした前妻と実子のことばかりで、現妻と継子には見向きもせず、文字通り話もせず、実子にだけ旅先から毎日手紙を出し、亡くなる時さえ実子のことだけ。何で再婚したの?再婚前に言ってたこと何だったの?エラの幸せのためを思って再婚したんだろうに、結果的にエラ不幸になってるじゃん。

そして王子が非常識。国交とは…他国の王女をほっぽり出してフォローなしとは…優しさと勇気で統治ができるのか…?舞踏会に参列した他国の重要人物らに対して無礼でも?マジで…?エラの顔ではなく内面の美しさに惹かれたのは分かるんだけど、統治に関する部分までたった1度会っただけの相手に影響されるのは次期国王としてまずくない?そもそも舞踏会に国内の若い娘全員呼ぶというのは結局エラを探したいからに他ならず、他の娘を見るつもり最初からないよね?それを職権濫用した上で国民にも楽しみを〜とか正当化してるのが嫌。エラと再会したいだけなら最初からあの辺りを徹底捜索させて見つけ出せばよかったじゃん。他の素朴な村娘達に期待持たせるなよ。舞踏会での他の女性への態度がマジでひどい。社交辞令として他の女性と踊るくらいはしたほうがいいと思う。

「妃を娶り世継ぎを生み、国民に揺るぎない未来を見せるべき」と言う部下に対して、「そうだ、だからそうする。国王として謎のプリンセスを探し出す」って王子が答えるシーン、ものすごく余計だったと思う。国王になった王子を上げて部下を下げるためのシーンだけど、これを入れたことによってこの映画は出産を賛美するものになってしまった。実写化にあたって様々なポリコレ的配慮がなされている中これは悪手では?王族なんだからそりゃ世継ぎが大事なのは当たり前だろと普段の私なら思うけど、綺麗事ばかり語るこの映画でそれを言われると妙に引っかかる。おとぎ話に現代の価値観を無理やり持ち込んで今っぽくしてる割に、そこの価値観は古いままなんだみたいな。おとぎ話だからっていうなら、悪役の気の毒な背景とか、王族は王族としか結婚できないみたいな苦悩とか、そういうの入れるのやめなよ。制作側の都合のいいように一部はリアルに描き、一部はファンタジーで濁すのは不誠実だし不均衡だよ。

これ観る時間があるなら、どう考えてもオリジナルのアニメ版シンデレラを観た方がいい。
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